大塚 広子(DJ、ライター、プロデューサー)
新聞や音楽専門誌、ライナーノーツなどに執筆。日本のジャズレーベル、トリオ・レコーズ、ブルーノート姉妹レーベルのサムシン・エルス、フランスのサラヴァなどのレーベル公式コンピレーション/ミックスCDなど、編集盤の選曲も多数。DJ経歴約25年。全国各地、スペインやニューヨークでのゲスト出演、2度のフジロックフェスティバル、東京JAZZに出演。渋谷のマンスリーレコードセッション「CHAMP」では20年以上レジデントDJを務めている。自身のレーベル、「Key of Life+」を主催し、作品監修やプロデュース活動を行う他、企業の音楽プロデュース/ブッキングや、ジャズ及びアナログレコード普及におけるオピニオンリーダーとして各メディアで活躍。ラジオ番組では、音楽史における女性をテーマにした企画番組を手がけ、同テーマでの研究執筆活動も行なっている。二児の母。
- Dinah Washington
- Dinah Jams
- 「ダイナが歌う曲は全てダイナのものになる」このアルバムを聴いて、そんな表現に大きく頷いた。スキャットをしないダイナは、他のジャズ歌手とは一線を画していて、この作品でもブルースやゴスペル色の強い大胆な即興で、クリフォード・ブラウン (tp)、マックス・ローチ(ds) らジャズ名手たちの強靭な演奏の上を堂々と渡り歩く。1954年ロサンゼルスでのライブ演奏。
- Gretchen Parlato
- Flor
- 2021年リリース。シンガーソングライターのグレッチェン・パーラトが、2人の子供たちを育てる中で感じたことや得たことを自分の尺度で形にした大傑作。デビッド・ボウイの生前最後の作品「NO PLAN」のカヴァーでは、「今の状況を受け入れ、そこに身を任すこと」を歌う。彼女が示唆する、許す、受け入れる、というメッセージは、今も私の学びにつながっている。
- Flora Purim
- If You Will
- 80歳になったばかりのフローラ・プリムが、15年ぶりにリリースした2022年作。2000年にジョージ・デュークと共作した「If You Will」のカヴァーでみせる高揚感、そしてポジティブさにまず驚く。彼女特有のハイブリッドな精神で、娘夫婦や夫のアイアート、仲間のミュージシャンたちの個性を見事にブレンドさせている。多彩なキャリアの中から選ばれた楽曲と、娘ダイアナ作曲の新曲など、聴きどころ満載。
- Egberto Gismonti
- Sol Do Meio Dia
- 土着的なのに凛とした佇まいが魅力の、ECMレーベル1977年作。「Noonday Sun」という英訳の本作は、インディオとともに生活し、先住民の音楽を研究したジスモンチの思いが結実している。20世紀最高峰の教育者、ナディア・ブーランジェのもとで学んだ近代西洋音楽の影響も、組曲構成の 「Café」や、ナナ・ヴァスコンセロスのビリンバウに多重録音コーラスを交えた「Kalimba / Lua Cheia」に表れている。
- Dave Pike
- Peligroso
- ビル・エヴァンスとの共作でも知られるジャズ・ビブラフォン、マリンバ奏者、デイヴ・パイク。2015年に亡くなり、遺作となった00年録音の本作は、久しぶりのラテンジャズ・プロジェクト。カル・ジェイダーとミルト・ジャクソンに捧げられたオリジナル曲を中心に、ウェイン・ショーターの「Beaty And Beast 」のカヴァーも収録。パイクの唸り声も混じり合う、陽気でスウィング感に溢れた昼の音楽。
- Fuse One
- Silk
- 一人一人がリーダー作を持つ豪華メンバーを集めたユニット、フューズ・ワンの81年リリースの2作目。レオン・ンドゥグ・チャンクラーのアレンジと、エリック・ゲイルの参加に注目。高速のフュージョン・ジャズダンサー、B2「Sunwalk」 もキャッチーだが、テーマの陰に隠れた、ベースとドラム/パーカッションのグルーヴが畳み掛ける、B1「Hot Fire」が◎。夕暮れに向けての時間に楽しみたい。
- Azymuth
- Rapid Transit
- 昼の最終部には、ジャケットの夕暮れが似合う本作を。アジムス のMilestoneレーベルからの5作目で、都会的なサウンドに磨きがかかった83年作。B2「I'm Just Looking Around」は、フルートと脱力感のある男声スキャットが清涼感を掻き立てるナンバー。穏やかに楽器やボイスが掛け合うなか、イヴァン・コンチの間を生かしたドラミングが最高に冴え渡っている。時代を感じさせない永遠のサウダージ。
- Mary Lou Williams
- Mary Lou Williams
- ピアニスト、作曲家のメアリー・ルー・ウィリアムスは、ジャズシーンでの功績が近年どんどん証明されている。本作は、自身の立ち上げたメアリーレコードからの1964年作。メアリーの功績の1つとも言える女性インディペンテントレーベルの先駆けとして重要なアルバムだ。ゴスペル・クワイアーとの荘厳な曲や、ワルツの静寂なリズムで綴られた「It Ain't Necessarily So」 など、内に込められた孤高の強さに心を掴まれる。
- Abdullah Ibrahim
- The Balance
- もうすぐ90歳を迎える南アフリカ人のピアニスト、作曲家、アブドゥーラ・イブラヒム。今現在も精力的にヨーロッパをまわっている。2019年ロンドン録音の本作は、オジリナル曲メインの構成で、ソロピアノの即興とセプテットチーム「Ekaya」をフィーチャーした重厚な楽曲も同時に楽しめる。「新しいものもあれば再現したものもある、多数の作品から成る小宇宙」と彼が語るように、円熟さと生命力にみなぎった珠玉の一枚。
- Mankunku Quartet
- Yakhal' Inkomo
- 南アフリカ共和国のジャズ・サックス奏者、ウィンストン“マンクンク”ンゴズィ率いるカルテットの1968年作。ホレス・シルヴァーとジョン・コルトレーンのカバー、そしてオリジナル曲「Dedication (To Daddy Trane and Brother Shorter)」と「Yakhal' Inkomo」の全4曲は、全て圧巻のクオリティ。モダンジャズへの深い造詣を詰め込み、アパルトヘイトへの共闘を表明した本作は、南ア・ジャズシーンの最重要作。