注目製品詳解Ⅱ Technics SU-R1000

新生テクニクスの新章開幕
音質向上のための技術をあらゆるセクションに投入したフルデジタル・プリメインアンプ

掲載元/季刊「ステレオサウンド」No.218

執筆:小野寺弘滋

昨年、テクニクスのフラグシップ・プリメインアンプとして発表されたSU-R1000。日本屈指のオーディオブランドの復活から6年、本機は新生テクニクスの新章の始まりを告げる製品だと私は感じている。

オーディオコンポーネントのほぼすべてのジャンルをてがけるテクニクスだが(このようなオーディオ専門ブランドは実は数少ない)、復活後、最大の話題を集め、大きな成功を収めたのは、ダイレクトドライブモーター(この方式はテクニクスが世界で初めて実現したものだ)を現代の技術で精度を高めたフォノモーターSP10Rであり、高感度なトーンアームと堅牢なキャビネットを組み合せたアナログプレーヤーのSL1000Rだろう。世はアナログブームとは言え、これだけデジタル化が進んだ現在、しかも総合オーディオブランドが、アナログ機器で評価を一段と高めたという出来事は興味深い。

いっぽう、最新のSU-R1000では、「フルデジタルアンプ」であることを最大の特徴としてメーカーは謳っている。本機は昨年度の「ステレオサウンドグランプリ」を受賞するなど、音質面でも高い評価を獲得しているが、本稿では、テクニクスの技術の粋が集約したこのモデルの、さまざまな特徴を述べていくことにする。

かつてないほど多様な機能を 搭載するSU-R1000

SU-R1000は、かつてないほど多様な機能を搭載したプリメインアンプだ。テクニクスが考える音質向上のための技術を、あらゆるセクションに投入していることが特徴で、フルデジタル化は、純アナログアンプでは困難ないしは不可能な、精密な制御・調整機能を搭載するための必然だったのだろう。すなわち、先進性ということが本機の特質の鍵となる。だが、それら技術について述べる前に、まずは全体像を眺めることから始めよう。

本機の基本的な構成は、フォノイコライザー回路やトーンコントロール回路を含むプリアンプ部の音声処理を(ほぼ)すべてデジタル信号で行ない、クラスD増幅のパワーアンプによって150ワット×2(8オーム)のハイパワーを発揮するというもの。プリアンプとパワーアンプをつなぐ中心部には、独自の「JENOエンジン」が位置しており、ここでデジタル回路の弱点であるジッター問題を解決するなど高度な信号処理を施し、加えて、クラスDパワー部へ送るためにPWM(パルス幅変調)処理が行なわれる。

クラスD自体は、古くからある増幅方式であり、デジタルオーディオ時代が訪れる前から実用化されていた回路である。入力された音声信号に変調をかけ、スイッチング動作をするパワー素子に信号を送って、最後にローパスフィルターを通し高効率な増幅を行なうのがクラスDであって、変調はアナログ回路でも可能だし、スイッチング動作を伴うとしても、それをそのままデジタルアンプと呼ぶのには、私はちょっと抵抗がある。であるならば、オーディオ用のデジタルアンプは1970年代に実用化されていたことになるが、その頃はそれらをデジタルアンプとは、ほとんど呼んでいなかったはずだからだ。

いっぽうで現在、クラスDをデジタルアンプと呼ぶ人もいる。とくに本機のように、変調回路まですべてデジタル処理で行なったものはデジタルアンプと呼ぶにふさわしいものだと思う。クラスDアンプが増加する昨今、それをアナログと呼ぶべきかデジタルなのかは、私には確信はない(技術者に訊いてもまちまちだ)。しかし、ここで述べた話から私が思うことは、アナログとデジタルの境界線は本当のところは曖昧で、もはや、アナログだから、デジタルだからどうのという時代ではないのだなということだ。つまり、何事も予断を持って臨まないほうがよいという話なのだが、この件は本稿の本筋ではない。話を戻そう。

本機の概要として触れなければいけない点はあとふたつ。ひとつは、ハイスピードな電源供給を高効率に行なう、高速スイッチング電源を搭載していること。もちろん、スイッチング電源の弱点であるノイズ対策は万全と言えるほどに施し、プリ部とパワー部など各セクションを専用給電とするなど高級機にふさわしい設計となっている。もうひとつは、プリ部を下に、パワーアンプを上部においた、高剛性の2層構造シャーシの採用により、振動の悪影響を極力排除する高剛性なつくりになっていることで、電磁的シールド処理にも留意された設計であることは言うまでもないだろう。

SU-R1000 INTEGRATED AMPLIFIER
テクニクス SU-R1000 ¥830,000(税込¥913,000)

●出力:150W+150W(8Ω)、300W+300W(4Ω)●入力感度/インピーダンス:0.3mV/100Ω(フォノ・MC)、2.5mV/47kΩ(フォノ・MM)、200mV/22kΩ(ライン)●寸法/重量:W430×H191×D459mm/22.8kg●備考:バランス入力HOT=2番ピン●問合せ先:パナソニック(株)お客様ご相談センター0120-878-982

SU-R1000の先進性

ここから本機の先進性について述べていく。先にパワーアンプについて述べたのでこの部分から。まず、出力信号から歪み成分のみをデジタル処理によって取り出し、先述のJENOエンジンにフィードバックすることで、過渡特性を損なわず歪みを低減するADCTを搭載。これは従来のNFB回路に当たるものだが、歪み成分のみをフィードバックすることは前例があるが、デジタル領域で行なっているところが新しい。もうひとつ、接続されたスピーカーの特性を測定し、位相などを補正して理想的なインパルスレスポンスを実現しようとするLAPCも、本機の音質改善技術の大きなポイント。もちろんこちらもデジタル領域で処理される。なお、パワーアンプ部のスイッチング素子(出力素子)には、高速動作が可能で内部損失が極めて少ないGaN-FETを採用し、電源部もこのタイプの素子が採用されている。

プリアンプ部を見てみよう。本機の入力は、ラインアナログ入力はアンバランス2系統/バランス1系統、レコーダー入力(ラインレベル)はアンバランス1系統、そしてフォノ入力も充実しており、MM/MCカートリッジに対応するアンバランス端子を1系統、MCカートリッジ専用のバランス端子を1系統備えている。フォノのバランス端子がMC専用なのは、MMカートリッジではバランス接続は技術的に意味がないためである。

これらアナログ入力は、AKM製A/Dコンバーターによってデジタル変換され、高性能なDSPに送られる。このDSPでは、各種の信号コントロールが行なわれている。先述のLAPCもこのDSPの担当だ。フォノ入力は、A/D変換の前にアナログ増幅が行なわれるが、フォノ回路については後述する。

デジタル入力は、同軸2系統、光2系統、USB(タイプB)2系統という充実ぶり。同軸ではPCM信号を最大192キロヘルツ/24ビットまで再生可能、USBでは、PCMは最大384キロヘルツ/32ビット、DSDでは22・4メガヘルツまで対応、さらにMQAデコーダーを内蔵する。すなわち、現在のデジタル音楽信号にフル対応した製品と言ってよい。これらデジタル信号も先述のDSPで各種コントロールが行なわれる。USB入力はノイズ混入が大きな問題だが、本機ではここに、ルビーマイカコンデンサーとカーボン抵抗によるパワーコンディショナーを置き、ノイズカットを行なっている。

SU-R1000 リアパネル
リアパネル

アナログ入力:アンバランス×2系統、バランス×1系統、
フォノ・アンバランス(MC/MM)×1系統、フォノ・バランス(MC)×1系統
メインイン・アンバランス×1系統、RECイン・アンバランス×1系統
デジタル入力:同軸(RCA)×2系統(最大対応周波数:PCM・192kHz/24bit)
光(TOS)×2系統(最大対応周波数:PCM・96kHz/24bit)
USB(Type B)×2系統(最大対応周波数:PCM・384kHz/32bit、
DSD・22.4MHz)
アナログ出力:プリアウト・アンバランス×1系統、RECアウト・アンバランス×1系統

SU-R1000 内部

本機の基本コンストラクションは2層構造。写真で見える上層は左右チャンネルを独立させたパワーアンプ部が中心で、デジタル処理セクションやフォノイコライザー回路を含むプリアンプ部は主にこの下に配置されている。電源部はプリ部とパワー部で独立して用意されており、上層と下層のそれぞれに分離搭載するほか、パワー部にいたってはさらに左右チャンネルまでを独立させるという徹底ぶりである(筐体前方の黒いカバーに覆われている部分)。なお、筐体中心部分に見える、誇らしげにブランド名を記した黒い小箱(銅板製シールドケース)内には、独自のロージッターのサンプリングレート・コンバーターやPWM変換回路、ADCT回路などで構成された「JENO Engine」(FPGAに実装)が収められている。

デジタル技術を使って アナログ再生を極める インテリジェント・フォノEQ

さて、本機は「インテリジェント・フォノEQ」と呼ぶフォノ回路の充実ぶりも大きな特徴だ。アナログプレーヤーで評価を高めた新生テクニクスにとって、これは重要なミッション。優れたプレーヤーは完成した。つぎはデジタル技術を使ってアナログ再生を極めようというわけなのだろう。

カートリッジからの音声信号は、最初にディスクリートのアナログ回路で増幅され、同時にフォノ回路で必須の、低域アップ/高域ダウンのイコライジングのうち、低域アップが行なわれる。アナログ増幅が必要な理由のひとつは、カートリッジの出力信号は微弱なため、そのままデジタイズすると誤差が大きくなりすぎるから。アナログ増幅されたフォノ信号はデジタル変換され、今度は高域のゲイン調整等がデジタル領域で行なわれる。

デジタルで処理するメリットは、イコライザーカーブの精度を飛躍的に高められることと、現在標準のRIAA以外の、フォノイコライザーカーブへの対応も容易に行なえること。このメリットを活かし、本機は計7種類のイコライザーカーブを備えており、RIAAではないイコライジングでカッティングされたレコードも、適切なカーブで再生できることになる。

イコライザーカーブの問題は複雑で、一般にステレオレコード登場とほぼ同時に、レコードのイコライジングは世界的にRIAAカーブに統一されたと考えられていたが、近年それはかなり怪しいということが判明し、各種カーブを備えたフォノイコライザーアンプが増えているのはそうした背景による。

例えば米コロンビア盤は、RIAAで再生すると、高域、低域ともに盛り上がった音になる可能性があり、それに準じたカーブ(低域、高域ともに若干絞る)が必要。あるいは英デッカ盤は、RIAAを基準とすれば、再生時は、ややハイを上げ、ローを絞ったカーブが必要、とされている。ただし、イコライザーは一タイトルごとに細かい調整が施されていたはずで、また、たとえば一口にデッカカーブと言っても年代でも相違があることに留意したい。イコライザーカーブは大切だが、もしこだわるのならば、それに囚われるよりも、トーンコントロールも活用して自分が楽しいと思う音に仕上げることが私はアナログ再生の正しい在り方のように思っている。その点本機は、トーンコントロールも内蔵しているので、カーブ切替と組み合せれば、各種レコードへの電気的対応力は現代アンプ随一と言えそうだ。

さらに本機のフォノ回路は、付属のキャリブレーション・レコードを再生することによって、クロストークのキャンセルとカートリッジの周波数特性の最適化(オプティマイザー。実測によるインピーダンス整合)が、これもデジタル領域で行なうことができる。とくにクロストークキャンセラーは、フォノカートリッジのセパレーションが25デシベル程度(片チャンネルの信号の20分の1程度が、常にもう片方のチャンネルに漏れている)ということを考えれば、絶大な効果が現われるはずだ。

「Intelligent PHONO EQ」の概略図

アナログレコード再生に最新かつ独自のデジタル技術が注ぎ込まれたフォノイコライザー回路「Intelligent PHONO EQ」の概略図。基本となるフォノイコライザー部は、アナログ回路とデジタル回路を組み合せたハイブリッド方式で、EQ(補正)カーブは一般的なRIAAだけでなく、計7種に対応する。また、DSPによるデジタル処理によって、フォノカートリッジ特有のクロストーク特性を改善する「Crosstalk Canceller」やフォノカートリッジの再生周波数特性の最適化(フォノイコライザー回路とのインピーダンス整合)を行なう「PHONO Response Optimiser」機能を装備するのも本機のフォノイコライザー部の大きな特徴である。

フォノ入力部の回路基板

こちらはそのフォノ入力部の回路基板。入力は2系統を装備しており、内訳は、MCとMMに両対応するアンバランス(RCA)を1系統、MC専用のバランス(XL R)が1系統というもの。なお、MCのバランス入力には全段バランス伝送のフルディスクリート回路が採用されている。

本機に付属する「キャリブレーション・レコード」

本機に付属する「キャリブレーション・レコード」。前述の「Crosstalk Canceller」や「PHONO Response Optimiser」用のデータを実測するためのもので、実測されたデータからつくられる補正データは、内蔵メモリーに3つまで記憶させることが可能だ。なお、「Crosstalk Canceller」や「PHONO Response Optimiser」は、別々にもしくは同時にオン・オフが行なえる。

EQUALIZATION CURVE
RIAA curve
RIAA curve イメージ図

Columbia curve
Columbia curve イメージ図
Decca/FFRR curve
Decca/FFRR curve イメージ図
本機が対応するEQカーブは「RIAA」「IEC」「Columbia」「Decca/FFRR」「AES」「NAB」「RCA」の計7種。一般的な「RIAA」(最上段)以外は、文献を参考にテクニクスがシミュレートしたものといい、本機搭載の「Columbia」と「Decca/FFRR」のEQカーブは上記の通り。

基本構成が確かだからこその真っ当なサウンドバランス。
清澄で冴え冴えとした クリアーさが魅力

本機のサウンドには、清澄で冴え冴えとしたクリアーな魅力がある。力感も存分で、真っ当なバランスを持つ。ここまでデジタル技術による多機能性を述べてきたが、基本は物量を存分に投入し、試聴を繰り返して質感表現に留意して練り上げた、オーソドックスなアンプなのだ。

各種の新機能の音質も試してみた(ADCTはオフにはできないので常時動作)。まず、スピーカーのレスポンスを整えるLAPCは、空間の透明度が格段に上がり、情報量も増加。いわゆるダンピングが効いた音となり、混濁感が劇的に減少する。これはたしかに新しい音で、とりわけデジタル入力でハイレゾソースの膨大な情報量を楽しむのにふさわしい。11・2メガヘルツDSDも安定して再生できたこともご報告しておく。この機能はリモコンで簡単にオン/オフできるので、状況や気分に応じて使い分けられるのもよい。

フォノ回路の新機軸はどうか。まず素の状態でもテクニクスのフラグシップにふさわしい本格的、かつオーソドックスなサウンドが聴ける。そこにクロストークキャンセラーを使うと、当然の如く音場空間が広がり、三次元的表現が高まる。ただし聴き慣れたアナログの音とは異なる感触もあり(長年クロストークだらけの音に馴染んできたのだ)、やや戸惑う気分もあるが、新世代の音であるのは間違いなく、フレッシュな快感が同時にあったことも述べておきたい。カートリッジ・オプティマイザーの効果は立体感の描出に現われた。

イコライザーカーブの切替は、ヴィンテージレコードの愛好家には朗報に違いなく、アナログの楽しみをいっそう深めるものとして歓迎したい。前述したように、レコードは一枚一枚イコライジングが異なると私は考えているし、ハマるカーブを聴き当てるのは一朝一夕には行かないと思うけれど、単純にレーベルにとらわれずに、トーンコントロールも併用して、あれこれ試してみて欲しい。ピタリとハマれば、これが同じレコードかと見違えるほどのサウンドが得られる可能性がある。

ここまで述べてきたように、デジタル技術を駆使した本機の機能は、音質にたしかな貢献を果たしている。そしてこれら機能がしっかりと役目をはたすことができるのは、繰り返すが、基本となる回路・機構が練り上げられているからだ。音楽再生に真摯に、誠実に取り組んだ成果が本機のサウンドの核であり、そのことを私はもっとも高く評価したいと思っている。

LA PC(Load Adaptive Phase Cali bration)

接続したスピーカーに対して、理想的なインパルスレスポンスを実現すると謳われるテクニクス独自の「LA PC(Load Adaptive Phase Cali bration)」機能はリモコンから簡単にオン/オフが可能。フロントパネルの出力メーター間に配置するインジケーターが点灯した状態がオンである。




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