Technicsブランドから新たに登場した“OTTAVA S”「SC-C50」。“OTTAVAシリーズ”で最もコンパクトな一体型スピーカーである。
SC-C50はワイヤレス機能を搭載し、PCM 384kHz/32bitやDSD 11.2MHzのハイレゾ音源から、Spotifyをはじめとする音楽ストリーミングまで再生可能。さらには設置場所に合わせて自動で音質を補正する「Space Tune」を備え、1台で幅広いソースや使用シーンに対応することが可能だ。Technicsブランドでありながら価格を8万5千円に抑えつつ、Technicsならではの上質なサウンドが堪能できるということにも注目したい。
今回、開発に携わったパナソニックの湯浅孝文氏と奥田忠義氏に、SC-C50の詳しい話をお伺いすることができたので、早速その詳細に迫ってみたい。
「スマホ世代により良い音を届けたい」がコンセプト
SC-C50は、10万円を切るTechnicsブランドとしては手頃な価格設定を実現しつつ、ストリーミングからハイレゾまで多彩なソースをワイヤレス再生できます。その上でCDプレーヤー機能もあえて省略してたり、リモコンも付属しなかったりと、先行したOTTAVAの各製品と比べてもより先進的なスタイルの製品と言えます。まずは、その開発コンセプトからお伺いできますか。
湯浅近年、海外をはじめ日本国内でもストリーミングサービスで音楽を楽しむ方が非常に増えてきていることは調査結果にも表れています。さらにスマートフォンやタブレットが普及している現状も考慮して、これまでのOTTAVAのコンセプトをさらに押し進めています。
奥田本機のひとつ前に登場した“OTTAVA f”「SC-C70」は、CDプレーヤー機能を備えたいわゆる「コンポ」の形でした。どちらかというとディスクで音楽を聴くことに慣れ親しんだ世代の方々に向けた製品に仕上げています。
対してこのSC-C50は、スマートフォンが生活の中心にあり、音楽もストリーミングで楽しむという30代〜40代を中心とした方々にもいい音を届けたい、ということをコンセプトに据えました。いわゆるBluetoothスピーカーは数多くありますが、「より良い音を、よりライフスタイルに馴染んだ形で」実現している製品は少なかったのです。ここを狙ってSC-C50を開発しました。
おっしゃるとおり、Bluetoothスピーカーで本格的なサウンドを楽しめるモデルはまだまだ少ないと思います。
奥田SC-C70のユーザーへのアンケートを行ったところ、約半数の方がTechnics製品に初めて触れたという結果が出たことも大きかったです。ブランド認知を広げる意味でも、さらに手頃な価格の製品で、よりTechnicsの世界を広げめていきたいという思いがありました。
湯浅上の世代の方々をターゲットに設定していたSC-C70に比べて、SC-C50では、もう少し若年層に広げていこうという狙いですね。
部屋のどこにいても良い音が聞こえるよう設計
それではSC-C50について、どのような音を目指したのか、またそのためにどのような技術を用いたのか、伺えたらと思います。
湯浅従来のオーディオシステムでは、スピーカーの正面で腰を据えて音楽を聴くスタイルが一般的でした。しかし、今回ターゲットと考えた若い世代や主婦層の方々は、家事や作業をしながらBGM的に音楽を聴くというケースも多いと思います。
そこで、スピーカーの正面だけでなく、広いエリアにまんべんなく良い音を届けることを狙った設計を目指しました。さらに、設置性の高いコンパクトな筐体としつつ、豊かなステレオ音場を味わえることも狙いました。
音の広がりという点は、「SC-C500」や「SC-C70」においてもテーマのひとつだったと思います。今回はそこをさらにフォーカスしたということですね。
奥田「どの場所から聴いても良い音」であることは、OTTAVAシリーズに共通するコンセプトです。ただ、製品の形態もアプローチもそれぞれ異っています。SC-C500はそもそもLRのスピーカーが独立していますし、初の一体型スピーカーとなったSC-C70は「音響レンズ」と呼ばれる技術によって広い指向性を確保しています。
湯浅今回のSC-C50は本体前面に3.1chのスピーカーユニットを搭載して、前方の180度へ音を放射することを可能にしました。3ch分のユニットは左右と真正面に60度の間隔で配置されていて、これでステレオ再生を行うのです。さらに、スピーカーの指向性を制御するホーンを各ユニットの前に備えて、ユニットを近接配置しつつ音の干渉を防ぐことを可能にしています。
なるほど。
湯浅ユニット構成は、トゥイーターとウーファーを各chにそれぞれ1基ずつと、サブウーファーを1基という構成です。合計7基のユニットを搭載しているということですね。また、トゥイーターとウーファーは同軸配置にすることで、コンパクトにしつつ、上下帯域の音圧差や位相差の問題を解消しています。また、本体前面をラウンド形状にし、各スピーカーの角度を振ることで、左右の広がりを豊かにしています。
3.1chでステレオ再生を行うわけですが、信号の振り分けはどのようになっているのでしょうか。
湯浅LchとRchは純粋にLとRの信号を再生します。センターchとサブウーファーchにはL+Rの信号を入れて、L/Rchとセンターchのレベル差を調整し、どの方向から聴いても均一にステレオ感が味わえるように設計しています。
奥田複雑に見えますが、できる限り特殊な方法を用いずに、素の音を良くする手法を取っています。一方、L/Rchとセンターchとの距離によって生まれる時間差はデジタル領域で調整して、どのリスニングポイントでも音のタイミングが合うようにしています。
サブウーファーはユニットサイズが大きいため、高域に比べるとどうしても音が遅れてしまうので、デジタル領域の信号処理でタイミングを合わせています。このようにして、サイズを超えた広がりのある音場を再現しています。
内部を拝見すると、コンパクトな筐体の中にぎっしりと中身が詰まっています。低域を増強するバスレフポートもかなりの長さで、大きなスペースを占めています。
湯浅バスレフポートは、ポート径を小さくすれば短くても低い音を得られます。しかし、それだと風切り音が大きくなってしまうので、十分な長さと太さを確保しました。また、限られたスペースでポートをなるべく長くするために湾曲させた形状にすると、今度は空気の乱流が発生します。そこで、できるだけストレートにして、空気の流れをスムーズにしました。ポート自体が微妙に振動するので、リブを付けて補強も入れています。
箱のつなぎ目に密封テープのようなものが貼られたり、スピーカーケーブルにもクッションテープのようなものが張られています。
湯浅サブウーファーのバスレフ共振をしっかり出すために、筐体は高い機密性を確保しています。スピーカーケーブルも共振によるノイズを発生しないようにクッション材を巻きつけています。
コンパクトなワイヤレススピーカーとは思えない配慮の細かさです。
湯浅ただし、ノイズ源となる振動は極力抑えつつも、音自体の躍動感は損なわないように、吸音材は一切入れていません。筐体自体がラウンド形状なので、内部で定在波が生じにくいことも、吸音材が不要な秘訣です。また、バスレフポートの入り口付近に位置するバッフル内壁を少し凹ませることで、空気がスムーズに流れる形状としています。
さらに、スピーカーユニットを実際に取り付けているバッフルの材料も、一般的なプラスチックではなく、グラスファイバーを混ぜ込んだABS樹脂として、剛性を向上させてスピーカーの余分な振動もしっかりと抑えられるようになっています。
スピーカーユニットも本機専用に新規開発
スピーカーユニットも、新規に開発されたと伺っています。
湯浅当社の既存品のユニットで設計を始めたのですが、やはりそれでは我々の求める音にはならず、新規に開発しました。特に6.5cmのウーファーは、そもそもカーブドタイプのコーンだったのですが、どうしてもエッジの反共振で音が濁ってしまうので、試作を交えてトゥイーターとのマッチングも鑑み、最終的には少し深めのストレート・コーンとしました。
スピーカーの振動板も、当初は普通のパルプを使っておりましたが剛性が足りず、マイカを用いた軽くて剛性のある材料に変更して、量産に至りました。12cmサブウーファーは、ロングストローク仕様とすることで口径を超える低域再生を可能としています。
この価格帯の製品で、スピーカーユニットから開発するというのも凄いですね。
湯浅そうですね、やはり「既存のユニットを取り付けておしまい」では理想の音質は実現できませんので。
スピーカーユニットの駆動はどのように?
奥田弊社は単品コンポーネントで独自のフルデジタルアンプ「JENO Engine」を採用していますが、本機も同様です。JENO EngineはTechnicsのアンプが搭載された全ての製品で用いていて、デジタルアンプの心臓部にあたるところです。
単品コンポーネントと同じ「JENO Engine」が使用されているのですね。
奥田はい。基本的にフルデジタルで処理を行い、最後の増幅ステージは製品ごとに異なりますが、心臓部は一緒です。もともとグランドクラスの単品コンポーネント向けに開発したものを、下のクラスの製品にも使用しています。
さらに、各スピーカーユニットの駆動にはネットワークを介していません。通常、単品のパッシブ型スピーカーの場合は内部にネットワークを持っていますが、こういった一体型スピーカーでは、ネットワークを介さずアンプがダイレクトにスピーカーを鳴らせるように設計できるメリットがあります。SC-C50のアンプは一貫してフルデジタル処理なので、信号伝送過程でノイズが混入しないことは一番の利点です。
また、アナログアンプではボリュームで音量を絞ってしまうとノイズに弱くなったりと様々な問題が生じますが、フルデジタルアンプではこうした問題も発生しません。単品コンポーネントでしたら様々なケアの方法がありますが、このサイズに全て収めるとなるとそれは難しく、フルデジタルアンプの良さがいっそう活かせます。
SC-C50では「JENO Engine」を4機搭載となっていますが、上位機では何基搭載されているのですか?
奥田実は、Technicsのグランドクラスでも1基しか入っていないものがあります。SC-C70は2.1チャンネル構成で3基ですので、今回のSC-C50がラインナップの中で一番多いんです。
ちなみに「JENO Engine」1個あたりに4チャンネル分のアンプが入っており、さらにイコライジングやLAPCなどの信号処理の役割も担います。本機では信号処理に余裕を持たせることと、各信号のセパレーションを高めて高音質化することを目的に、合計4基用いています。実際、そのうち1基はSpace Tune、LAPC、スピーカーのタイミング調整などに割り当てています。
設置する環境に合わせてチューニングする「Space Tune」
設置環境に最適な自動補正を行うSpace Tune機能も、SC-C50の大きな魅力ですね。
奥田リビングなどの生活環境で使っていただくとなると、どのような部屋に、またどのような場所に置いてもいい音で聴いていただけるようにすることは重要だと考えました。それを実現するのがSpace Tuneで、SC-C70で初めて搭載した機能となります。
実はSpace Tuneに用いられている技術は、松下電器の音響研究所の時代から研究されている音響計測技術で、社内での製品開発における音作りで使用しているツールを転用したものなのです。つまり、門外不出の技術といえます(笑)。
長年の研究開発で培った解析技術をホームオーディオに組み込んでしまったと・・・。
奥田そうです、ですからかなり贅沢なことをしているのです(笑)。SC-C70の時はiPhoneやiPadのマイクを使って補正を行っていましたが、もっと簡単に、本体だけで補正が行えたほうがより多くの方に使ってもらえると考えました。そしてSC-C50では、スマートフォンを使わずに、内蔵マイクによって本体だけで補正ができる「Space Tune Auto」を実現したのです。
オートモードでは、特に壁や床に近づけた時の反射によって低域が膨らむ問題を改善することにフォーカスしています。さらに詳細な補正を必要とする方のために、iPhoneを使ってのSpace Tuneにも対応しています。
なお、Android端末への対応も技術的には可能なのですが、マイクの性能差が機種ごとに大きいため、機種によるマイク特性の差が少ないiOS端末のみへの対応となっています。
iPadでSpace Tuneも試しましたが、よりリスニングポイントに近い位置から測定できることもあり、さらに緻密に補正されるという印象でした。
奥田Space Tune Autoの場合は、より柔軟な対応ができるように低域部分の補正に留めています。iOS端末を使う場合は、高域まで補正を行います。より手軽なAutoと、シーンに合わせて使い分けていただけたらと思います。
補正の追い込みなどは、開発の苦労が多かったのではないでしょうか。
奥田Space Tune Autoでは、なるべく手軽に最適化を行ってもらえるように、測定時間を大幅に短縮させました。
Spece Tune/Space Tune Autoは、部屋の広さはどれくらいまで対応可能なのでしょうか?
奥田特に制限はありません。iPhoneで測る場合でも、大体5mくらい離れていても問題ないように設計しています。
湯浅それから、SC-C50の登場に合わせて、操作アプリも「Technics Audio Center」へと進化しました。もともと「Technics Music App」というアプリがありましたが、今回、Googleのサービスへの連携対応に合わせてアプリも刷新したかたちです。基本的な使い方は大きく変わっておらず、入力切り替えから音量調整、ストリーミングサービスへのアクセス、USBメモリーやNASの音源の再生などが行えます。
奥田アプリからの操作だけでなく、本体から直感的に操作できる「お気に入り(FAV)」機能も用意しています。これはよく使うストリーミングサービスやインターネットラジオ、USBの楽曲などを最大9つまで登録して、本体からワンボタンで呼び出せる機能となります。
単体ラジオのように使えて、普段使いに重宝する便利な機能ですね。
奥田機能面については、SC-C50を2台使ったステレオ再生にも今後のアップデートで対応する予定です。
USB接続での再生コーデックが、PCM 384kHz/32bit、DSD 11.2MHzまでに対応と、現時点における最高位のフォーマットにまで対応しているところにも注目したいです。
奥田世の中にあるソースは一通り再生できるようにすることは意識しました。もちろん、こうしたハイレゾ音源の魅力を楽しめるだけのサウンドを実現できたと自負しています。
試聴で私もそれは実感しました。「Chromecast built-in」を使えば、マルチルーム対応のスピーカーしても利用できますね。
奥田はい。さらに「works with Googleアシスタント」となっておりますので、別途お持ちのスマートスピーカーと連携して、音声操作を行うこともできます。
湯浅なお今回、期間限定ではありますが、ご購入頂いた方で「CLUB Panasonic」にてご愛用者登録、ご応募いただいた方全員に、SC-C50専用のオーディオボードをプレゼントするというキャンペーンを行なっています。
デザイン的にもSC-C50に合わせた形となっています。ボードの材質はMDFで、さらに鋳鉄のインシュレーターを組み合わせています。オーディオボードやインシュレーターを手がけるTAOCさんと一緒に共同開発しました(4月24日までの購入者限定、詳細はキャンペーン特設ページを参照)。
本機のような製品はオーディオ用ではない一般の家具に置いて使うケースがほとんどで、Space Tuneのような機能があるとはいえ、こうしたボードで物理的な対策を行うことは、そのサウンドを引き出す上で重宝しますね。本体のデザインの美しさを損なうことのない形状も魅力です。これは是非とも手に入れておきたいアイテムですね。
エントリーモデルであってもTechnicsの思想は一貫している
実際にSC-C50の音を聴きましたが、素晴らしいですね。USBメモリーから384kHz/24bitのハイレゾ音源を再生したのですが、ハイレゾらしいナチュラルな質感が楽しめました。これだけコンパクトなスピーカーでありながら、Technicsの上位機で感じられるしなやかな質感がしっかりと受け継がれています。
奥田クラスを問わず基本的な音作りは一貫させていますね。そして、Technicsの機器は弊社ディレクターである小川が音をチェックするという最終関門も変わりありません。小川自身がエンジニア出身でありミュージシャンでもあり、その両方の立場でチェックしますので、音楽の持つエネルギーをきちんと再生する、という部分は常々言われています。
こういった一体型のコンパクトな製品であっても妥協せずにしっかりと一貫性を持って思想を貫く。素晴らしいですね。本日はありがとうございました。
以上のようにSC-C50は、コンパクトかつTechnicsブランドではエントリーとなるモデルでありながらも、充実した内容となっている。美しいフォルムを纏うその外観の中身は、同社の最新技術とノウハウがたっぷりと詰め込まれているのである。次回は、実際にSC-C50を試用した実機レビューをお届けするので、引き続きご注目頂きたい。