特別企画 SpaceTuneで部屋に合わせてチューニング。“いい音”とライフスタイルの調和を完璧に体現。テクニクスの一体型スピーカー「SC-C50」レビュー

株式会社音元出版 PHILE WEBより

取材・執筆:生形三郎

“OTTAVA S”「SC-C50」は、Technicsのラインナップ中で最もコンパクトなワイヤレススピーカーだ。スマートフォンから操作を行うスタイルで、Spotifyなどの音楽ストリーミングからハイレゾ音源までを再生可能。さらには部屋中どこでも良い音を楽しめる広がり豊かな音響設計や、設置場所に合わせてサウンドを最適化する「Space Tune」の搭載など、現代のライフスタイルに求められる機能を1台でカバーしてくれる。

“OTTAVA S”「SC-C50」¥85,000(税抜)

“OTTAVA S”「SC-C50」¥85,000(税抜)

前回のインタビュー編記事では、テクニクス秘伝の技術が注入されたそのこだわりを開発者に伺ったが、後編では、実際にSC-C50を聴いてサウンドや使い勝手をレポートする。

強靱な低音と美しい中高音で多彩な音楽ジャンルを心地良く鳴らす

様々なソースを再生できるSC-C50だが、音質のポテンシャルを知るためにはハイレゾ音源で確認するのがいいだろう。音楽ファイルはWi-Fi/有線LANによるネットワーク経由でも再生できるが、まずは最も手軽な再生方法としてUSBメモリー再生を用いた。USBメモリーを背面のUSB端子に挿して、本体上部の再生ボタンを押すだけで、すぐさま再生が開始された。

背面のUSB端子にUSBメモリーを挿せば、保存したハイレゾ音源を手軽に再生できる

背面のUSB端子にUSBメモリーを挿せば、保存したハイレゾ音源を手軽に再生できる

音が出た瞬間に驚かされるのは、馬力のある力強い低音の再現力だ。より豊かな低域を得るために前後の動きを大きく設計されたロングストローク・ウーファーが、十分なパワーで駆動され空気を震わせる。コンパクトなボディから、低音のエネルギーが聴き手の身体へと存分に伝わってくる。

ビートの効いたエレクトロポップスを再生すると、キックドラムが生き生きとした躍動感で弾み、気分が高揚させられる。ロックでも、バスドラムやエレクトリックベースがしっかりとした厚みで再現される。ジャズトリオの再生でも、ウッドベースにSC-C50のサイズを忘れるような存在感があり、音楽を牽引する快活なグルーヴが生み出される。

同時に気づかされるのが、テクニクス製品に共通する美しくたおやかな中高音の表現だ。しなやかで柔らかみのある、瑞々しい質感の音が楽しめるのである。声や生楽器はもちろん、歪ませたディストーションギターも耳障りにならず音色が美しい。これは低音域の充実も大きく影響しているのだろう。つまり、質感の良い中高音に加えて確かな低音の支えがあるからこそ、重心の低い理想のプロポーションが形成されるので、心地よい音が実現できるのだ。

専用ボードの上に設置したSC-C50

専用ボードの上に設置したSC-C50

ディテールの再現力も特筆すべきもの。繊細な表現が肝となるクラシックでも演奏の明瞭度が高く、ピアニストの運指や弦楽器の弓の動かし方など、細部まで表現してくれる。そのため、単なる音色表現の美しさにとどまらず、音楽の内容までが聴き手に届いてくる。

今回の試聴では、期間限定でキャンペーンに応募した購入者全員にプレゼントされる専用ボードも試したが、これは極めて有効なアイテムだ。SC-C50は低音の馬力が想像以上で、その実力を最大限発揮させるためにも設置面の安定は重要だ。このボードがあるとないとでは、スピーカーから伝わるエネルギー量が別物だ。デザインもサイズもジャストマッチなのもいい。

部屋中どこからでもバランスの良い音が楽しめる

本機のこだわりポイントである、音の広がりも秀逸だ。試しに本機をローテーブルに設置して部屋の様々な位置から音を確認してみたが、後ろに回り込まない限りは、どこから聴いても音楽のバランスが崩れない。この音の広がりを実現するのが、本機のユニークなスピーカー設計だ。

そもそもステレオ再生は、左chと右chで異なる信号を再生することで成り立つ。前回の記事で紹介した通り、SC-C50はステレオスピーカーの間にセンタースピーカーを備え、そこから両chをミックスした信号を再生する。これに加えてラウンド形状のボディにスピーカーユニットを角度をつけて配置することで、前方180度にわたって均一に音が届く。そのため、前方のどの場所からでも全ての音域の音が均等に聞こえ、かつ豊かに広がる。

SC-C50のスピーカーユニット構成

SC-C50のスピーカーユニット構成

ウーファー/トゥイーターを同軸上に配置した効果も絶大で、どの位置から聴いても音の像がぼやけない。これは合計7つのスピーカーユニットから発せられる音のタイミングが正しく揃っていなければ不可能なことだ。

こうした音の広がりは、生活空間での日常的なリスニングを考えると重要だ。なぜなら、日常生活で特定のリスニングポイントにとどまっていることはまずない。SC-C50は現代の音楽の楽しみ方を踏まえた設計が行われたというが、まさにその意図が存分に発揮されている。

今回はハイレゾ音源を中心に音質チェックをしたが、もちろん音楽ストリーミングの圧縮音源でもこうした再生能力は発揮される。クラシックからジャズ、ロックからエレクトロニックまで不得意なジャンルがない点も、音楽ストリーミングで膨大な音楽をボーダレスに聴くことができる現代のスタイルにマッチする。

本体上部のディスプレイに選択中の入力ソースが表示される

本体上部のディスプレイに選択中の入力ソースが表示される

こうしたサウンドを可能にするのが、スピーカーユニット開発から筐体設計、ロスや歪みを排除する信号経路設計、Space Tuneなどの細やかな配慮の積み重ねだ。一体型スピーカーの多くは、サイズやコストの制約もあり、デジタル領域から音色や広がり感を力業でまとめ上げている印象を受けるものも少なくない。それらは総じて、音楽的に違和感のあるサウンドとなってしまう。

SC-C50は、技術の積み重ねの数々と妥協のない設計により自然で良質なサウンドを手に入れた。開発陣へのインタビューから試聴を経て実感したが、スピーカーユニットの開発から緻密なDSP処理まで、一体型スピーカーでここまで手をかけた製品は、少なくとも筆者は見たことがない。これぞまさにテクニクスという完成度の高さと言える。

アプリで直感的に操作可能。本体からのシンプルな操作にも対応する

リモコンの役割もはたす専用アプリ「Technics Audio Center」を使って、本体の操作性もチェックした。本アプリはDLNA再生や音楽ストリーミングの選曲や再生操作はもちろん、Space Tuneや各種の音質調整、設定まで行える。

起動すると、ホワイトを基調とした洗練されたグラフィックが目を引く。視認性がよく、レスポンスも素早い。NASからの音源再生やインターネットラジオなどで一通り再生を確認したが、いずれもスムーズな操作が行える。リモコンがないことを不安に思う方もいるかもしれないが、アプリの完成度が高いので、スマートフォンからストレスなく操作を完結できる。

「Technics Audio Center」のメイン画面

「Technics Audio Center」のメイン画面

こちらはプレーヤー機能を全画面表示したところ

こちらはプレーヤー機能を全画面表示したところ

その一方で、「お気に入り(FAV)」機能を備えており、好みのソースや楽曲を登録しておけば本体のボタンから一発で呼び出すことができるのが便利だ。電源や音量など必要最低限の機能もボタンで直接操作でき、シンプルなふだん使いにも対応してくれる。

本体手前の底部には照明が埋め込まれているが、オン/オフや輝度の調整はアプリから操作できる。その調整時に緩やかに光の強さがフェードしながら切り替わるところなど、本体やアプリの画面同様に完成度の高いデザインとなっていることにも、Technicsらしい美意識を感じさせられる。

本体手前の底部には照明が埋め込まれていて、輝度も調整できる

本体手前の底部には照明が埋め込まれていて、輝度も調整できる

Space Tuneが設置環境に合わせてサウンドを最適化してくれる

本機を使いこなす上で欠かせないSpace Tune機能も試した。本機は低域の再生能力が高いだけに、その調整は良い音を楽しむ上で肝となる。

スピーカー再生で我々が聴いている音は、スピーカーから直接届く音に加えて、スピーカーの周囲の床や壁、天井などで反射した音も多く含んでいる。特にスピーカーの接地する面や背面など(例えばスピーカーを置いた台や床、背面の壁)、近距離からの音の反射は、特定の帯域の音のみが何倍ものエネルギーとなって反射増幅されてしまい、音楽本来のバランスから大きくかけ離れた音になってしまう。こうした反射の影響をコントロールして最適な音質を届けてくれるのが、Space Tune機能だ。

まず、Space Tuneをオフの状態で壁際の机の上に本機を設置して聴くと、低域再生は力強いのだが、低音域が幾分モコモコとする。ベース楽器の音程が少し不明瞭で、楽器自体の音色が実際よりも膨らんで聴こえてしまうのだ。これはまさに、本機のすぐ後ろの壁や、接地面などとの間で低い音だけが強まる現象である。

Space Tune機能の効果も検証した

Space Tune機能の効果も検証した

この状態から、まずはプリセットの「Wall」を選択してやる。すると、より低音域の量感が引き締められ、楽器の音へのフォーカスがより鋭くなった。さらに本体の内蔵マイクで部屋の響きを調節する「Auto」で自動調整を実施すると、低音域だけでなく、それより高い音域も調整がなされ、よりフォーカスの合ったナチュラルな質感を得られるようになった。

続いて、iPhoneの内蔵マイクを使った「Measured」も試したが、こちらは音楽ソースの明瞭度がいっそう研ぎ澄まされる印象だ。リスニングポイントで測定する分、そのポイント1点での補正効果が高まるようで、様々な場所で聴く環境では「Auto」の方が適切な場合もあるかもしれない。本機の実力を最大限に引き出すためにも「Measured」もぜひ試しておきたい。いずれにせよ、補正が加わっていることを感じさせるような不自然な感触は一切及ぼさないところが素晴らしい。まさに、松下電器の音響研究所の時代から研究されているという門外不出の技術が光っている。

Space Tuneは専用アプリ「Technics Audio Center」から各プリセットおよびAuto/Measuredを選択可能。Autoは本体のボタンだけでも実行できる

Space Tuneは専用アプリ「Technics Audio Center」から各プリセットおよびAuto/Measuredを選択可能。Autoは本体のボタンだけでも実行できる

また、音質面での使いこなしとして有用と感じたのが「ボイスモード」だ。その名の通り声の音域、すなわち中域の明瞭度や存在感を一段階高めることができる機能だ。

オンにすると、ヴォーカルの存在感がぐっと高まり、歌詞やメロディが自然に前に出てくる。主旋律を奏でる楽器も同じく存在感を増すので、歌がないインストゥルメンタルでも重宝する。どの場所にいても積極的に音楽が耳に届いてくるイメージなのだが、効果も自然であり、リスニングの位置が固定されていない場合などはむしろ常時オンにしておいてもいいほどだ。

総じてSC-C50は、居住スペースの広い範囲でカジュアルに良い音を楽しみたいユーザーにとって、最高の選択肢になる一体型スピーカーだ。今回紹介した機能に加えて、スマートスピーカー連携やマルチルーム再生まで行うことができ、まさに現代の音楽リスニングを隅々までサポートする。その上で、高級オーディオブランドとしてのTechnicsの思想を妥協なく受け継いでおり、それは本機の鳴らす美しい音楽性にも表れている。

SC-C50は、スマートフォンが生活の中心にある現代のライフスタイルへ完璧にマッチングする、上質なサウンドと利便性を両立した先駆的な一体型スピーカーなのである。

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