1200s ONLY(トゥエルブハンドレッズ オンリー) 2021年5月20日(木)19:00 ~ 23:30

1200s ONLY イベントレポート

日時:2021年5月20日(木)19:00 ~ 23:30
場所:SUPER DOMMUNE(スーパードミューン)

執筆:細川克明

編集者/ライター。著書『Technics SL-1200の肖像』の他、編集または執筆を手がけた『そのレコード、俺が買う!』(須永辰緒 著)『ドーナツ盤ジャケット美術館 by MURO』『アナログレコードのある生活』『真ッ黒ニナル果テ』(MURO著)『For Diggers Only』などがある。

撮影:Cherry Chill Will

レコードショップのバイヤーを経て2009年からカメラマンとして活動開始。Hip Hop 、レゲエの現場を中心に内外のアーティストを多数撮影。日本のHIP HOPシーンをリアルに切り取った初の写真集「RUFF, RUGGED-N-RAW」(DU Books)を出版。

テクニクスが1972年に発売したターンテーブル、SL-1200。このSL-1200を主軸に置き、5月20日の19:00からS/U/P/E/R DOMMUNEでストリーミング配信された“1200s ONLY”は、SL-1200の7代目となるMK7のシルバー・モデルの発売前日というタイミングで公開されたスペシャル・プログラム。

第一部では書籍『Technics SL-1200の肖像』の著者という縁もあって、ゲストにDJ JINとダースレイダー、そしてDJ KRUSHを招いてのトーク・タイムで登壇したのだが、その際に愚直にも“これまで観てきた中で、プロDJとして最も印象に残っているDJの所作は?”とDJ JINに尋ねた。そのときに即座に返ってきたのが、“それは、これから出てくるDJの方々の所作を観ればいい”という名回答。この至言に着想を得て、第二部としてストリーミング配信されたDJプレイをレポートしていく。

DJ KOCO a.k.a. SHIMOKITA

高いスキルと豊かな音楽性を兼ね備えた圧巻のプレイ

SL-1200MK7-K(ブラック・モデル)のリリース時に公開されたWeb CMに続く流れで、まず登場したのがDJ KOCO a.k.a. SHIMOKITA。自宅にSL-1200MK7を導入しているということもあり、MK7マスターというべきか、既に世界レベルで高い評価を獲得しているのも納得のテクニカルなプレイを披露していく。これまでに7インチをDJプレイしたことがある人であれば即座に膝を打つと思うが、“7インチで、あのプレイ”は何度見ても驚かされる。

どうしても専門用語が多くなってしまうのだが、具体的には45回転のレコードで、しかも7インチという小口径のレコードでのジャグリング。縦フェーダー/クロスフェーダーで表情を使い分けるスクラッチ。カートリッジがスキップしてしないことが不思議なほどの高速バック・キュー。針先をのぞき込めるルーペを目に装着しているかのようなニードル・ドロップ……圧巻のプレイとは、まさにこれらのことだろう。

もちろん、そんなテクニカルな部分に注視せずとも目を離せなくなるのは、豊かな音楽性も常に併存しているから。素早くレコードを取り替えるために振り向く動作、視聴者にどちらのターンテーブルのレコードが再生されているかをガイドしてくれるようなしぐさ。そして、誰よりもプレイしている自身が楽しんでいることが伝わってくるところなど、随所で“ヒップホップDJ”本来の姿を感じさせてくれた。プレイ後にDJをしていたらダイエットの必要はないと笑って語ってくれたのだが、高い集中力を持ち続けて日夜SL-1200に向き合っていることを物語るセットだった。

DJ BANA feat. 西内徹(sax & flute)

生演奏も組み合わされた魅惑のレゲエの世界

続いて登場したのが、レゲエのSELECTOR(選曲)として数多くのクラブでのプレイに加え、FM番組でも活躍しているDJ BANA。今回の出演DJの中では唯一の初見だったのだが、常に片手はマイクを持ったまま視聴者をナビゲートしてくれるかのようなパフォーマンスを織り交ぜ、ダンスホールの名曲を中心としたスタイルで一気にDJ BANAの世界観に引きずり込まれたのが印象的。

時折、マイクを持つ手を変えながらアーティスト名や楽曲のリリックの内容などにも触れながらも、クイックで曲をつないでいく。7インチのみならず、12インチ/LPサイズのレコードを載せ替え、ピッチ調整や頭出しを素早くこなす手慣れた仕草によって現場でたたき上げてきたキャリアを見せつけてくれた。

終盤にはフィーチャリング・ゲストとして西内徹が招かれ、マット・サウンズ「Baku Steady」をバックに骨太なメロディを奏でるテナー・サックスを生演奏で披露。続いて、楽器をフルートに持ち替えてエクスクルーシブ・トラックとしてプレイされたのが、フランキー・ナックルズ「The Whistle Song」のレゲエ・ディスコ・ロッカーズによるカバー。数多くのカバーが存在するハウス・クラシックだが、最初にリリースされてから30年というタイミングで7月に7インチでリリース予定のトラックが、今回のためにカッティングされたダブプレートでプレイされるというサプライズであった。

その余韻を引き継ぎながら最後にプレイされたのが、カールトン・アンド・ザ・シューズの名曲「Give Me Little More」……まさに多幸感という言葉がふさわしい転換となった。

CAPTAIN VINYL(DJ NORI+MURO)

膨大な音楽ボキャブラリーを誇る猛者によるB2B

続いての登場は、ハウスDJのレジェンドとして知られるDJ NORIと、“キング・オブ・ディギン”として世界に認知されているMUROによる7インチに特化したB2B(バック・トゥ・バック)プロジェクト、CAPTAIN VINYL。長いキャリアに裏付けされた豊富な音楽ボキャブラリーを駆使して選び出される楽曲は“7インチ大喜利”とでも呼びたくなるような奥深さで、既に多くのファンから支持されている。

冒頭はDJ BANAの世界観を踏襲し、レゲエ系の楽曲からスタート。そこからインスト/ボーカル曲を織り交ぜながら徐々にラテン系の楽曲に展開していったなと思っていると、気が付けばBPM120くらいの打ち込みトラックにシフトしていたと感じた人も多かったのではないだろうか。熟練のスキルと言えばそれまでなのだが、2人のプレイを観るたびに一挙手一投足に目を奪われるのも、特筆すべきポイント。例えば、ルイ・ヴェガつながりといった明確な解答があるだけでなく、“なぜ、この曲を選んだのか?” “ターンテーブルに載せたのに却下したレコードは?” “なぜミックスせずにカットインでかけたのか?”といったように、阿吽の呼吸に飲み込まれていく瞬間が何度もあった。

加えて、意外な曲が7インチでリリースされていた驚きや、7インチならではの出音/エディットの違いなど、随所でマニア心をくすぐってくる。そして、ギリギリのタイミングまで次にかけるレコードを逡巡する姿。若手であれば気になってしまう立ち振る舞いも、選曲という行為の“奥深さ”として見所になるのは、キャリアの重みゆえだろう。

少なくない人が気になった部分だと思うので追記しておくと、DJ NORIが着ていたシャツについては、配信の前日、5月19日がグレイス・ジョーンズの誕生日だったから、とのこと(この辺りは、何気ない部分だけれど、大切なエピソード)。

DJ KRUSH

ターンテーブリストが描き出した至高の音旅行

ここまでは交代時も連続してのDJプレイだったのだが、ダースレイダーとカメラマンのcherry chill willによるトークを挟んで最後に登場したのが、DJ KRUSH。“ターンテーブリスト”という表現の可能性を世界的に知らしめた孤高の存在だ。

愛機となるDJミキサーのビンテージ機種にチェンジするためのトーク時間だったわけだが、プレイ開始のド頭からDJミキサーに搭載されたサンプリング機能とディレイを使いながらBPM80以下の重いビートを奏で始めた。SL-1200横にラップトップ・パソコンが設置されていたことからも分かるように、コントロール信号を操るバイナルを活用したシステムと、そのコントローラーを組み合わせたDJセットだ。

第一部のトークで語っていたように、DJ KRUSHがSL-1200MK7に触れるのは当日が初めて。リハーサルでは30分ほど試奏しただけだったが、冒頭のスクラッチを聴いただけでも、どれだけ歴代のSL-1200と連続した操作感が実現できているかを推し量れただろう。一旦、バイナルが回り始めれば、まさにミュージック・ジャーニー。“俺もトルクを上げていかないとね”と事前に語っていたのは軽いジャブだったと痛感させられた。

終演を迎えたのは、もう少しで日付をまたごうというタイミング。配信を冒頭から観てくれた友人から“昔の大バコはこんな感じでいろんなジャンルの音楽が鳴っていた”といったコメントをもらったのだが、確かに今回出演してくれたDJたちがSL-1200を相棒にキャリアを歩み始めた1980~1990年代がフラッシュバックした人も多かったのかもしれない。しかし、他方でデジタル・ネイティブな世代にとっては、新鮮に感じられたというコメントも多かった。

DJごとに異なるカートリッジのセレクトや着脱の動作、ターンテーブルの縦置き/横置き、7インチ・アダプターの違い、ピッチ・コントローラーでのテンポ合わせのスピードなど、ニッチな所作についてはスペースの関係で書き出せなかったが、そういったSL-1200にまつわるフィジカルな部分すべてが、既にカルチャーとなっているのだ。そのことには、多くのDJたちから現場に立つ機会を奪っているコロナ渦でなくても強く納得いただけたのではないだろうか。個人的にも久しぶりに目の当たりにした現場であったし、タイトル通り“1200s ONLY”な“神回”としてずっと記憶しておきたい。

第二部 出演者一覧

DJ Turntable ダイレクトドライブターンテーブルシステム SL-1200MK7