岩崎宏美 × 井谷哲也 SPECIAL TALK

ー歌を通して声を使って人に大切なものを伝えるのがシンガーという方たちと思いますが、岩崎さんはシンガーとしてのご自分をどう捉えていらっしゃいますか。

岩崎 声を維持することがとても大変だと最近は身をもって感じています。ホルモンバランスとか、女性ホルモンが減ると声って低くなるんです。だから以前の譜面がいつか使えなくなるでしょうし、そうなった時に自分の歌のチョイスの仕方とかも変わってくるでしょうし、この先どうなっていくのかなという不安もありますけれど、その時どういう歌に出会えるかという期待感もありますから、不安が半分、楽しみが半分という感じですね。

ー以前とキーが変わるから歌える歌もありますよね。

岩崎 もちろんそうです。「ロマンス」は以前のキーのままなんです。今までは全部地声で歌っていたのですが、地声が出なくなっているところは裏に返しながら歌ったり、工夫しながらもまだ当時の譜面を使っています。

井谷 そうなんですか。人の声がオーディオにおいても基本なんですよ。みんな聴き慣れているし、ちょっとでもバランスがおかしいと変だなという違和感を感じたりするので、人の声は本当に基本なんです。我々ものを作る時もヴォーカルで判断というのは欠かせないですね。

岩崎 楽器の音ではなくて?

井谷 そうですね。楽器の音はまた別の要因があるんですけど、人の声がどう自然に聞こえるかが最も重要なポイントです。

岩崎 私もレコーディングの時はそれが基本です。楽器の音はわからないけれど、自分の声に対しては、ヘッドフォンに返ってくる声や、マスタリングの時に聴く声が生音からかけ離れているとか、自分の声だけはこだわります。

井谷 我々も聴きなれた音源だと。凄く敏感に声のバランスの違いがわかりますので、それで機器のチューニングをしていきます。
後、音の世界はつき詰めていくと、良し悪しでなくて好みの領域に入って行きます。例えば、よくアナログとハイレゾとどっちがいいんですかと聞かれるんですが、私はそういう時は、好みですねと。音の世界って最終的には主観なんですよね。それぞれ感じ方がありますし、それが音の難しさでもあり、面白さでもあります。

岩崎 みんながこのようなオーディオルームを持っているわけではないですから、難しいですね。私たちもそうなんです。レコーディングの時は必ず大きいスピーカーで聴いて、そのあと小さいスピーカーでも聴いてチェックをしています。みんながこの音量で聴けないですからね。

岩崎宏美・井谷哲也

ーアナログ盤の魅力はどういうところだとお思いですか?

井谷 アナログって、我々ユーザーに近い感じというか、メディアとリスナーが近いんですね。CDは便利なんだけど、機械が何かやってるんですよ、だからちょっと距離感がある。アナログは綺麗に磨いて針を下ろして、音が出てくる。それも溝が切ってあって音に変換されるのがなんとなくわかるから、リスナーとメディアの距離が近いと思うんです。そのあたりかな。

岩崎 アナログ盤は、曲の順番を決める時に、分数によっては入りきらないから、これはB面にしますかとか。昨日も片付けながら、ああここでA面が終わるのか…ってひっくり返して。懐かしかったです、そういう時間が。ジャケットも、このアナログのサイズはいいですね。カメラマンも撮影のしがいがあるし、大サイズだとかっこいいですよね。海外に行くと全部ジャケ買いでしたから。グローブがついているもの(マイケル・ジャクソン12”Sg)もそうでした。JALでもらえるバッグにちょうど入るのでいいんですよね(笑)。バッグにレコードを一杯入れて帰ってきたことがよくありましたよ。

ー(スタッフ)せっかくだから、若いころの岩崎さんと、最近の岩崎さん聞いてみませんか。

岩崎 では「あおぞら」です。砧公園で撮ったジャケット。風が強くて立っていられなくて、座って撮影したんです。おデコも全開(笑)。
(アナログ盤の上にスタビライザーを載せるのを見て)それはなんですか?

井谷 レコード盤を密着させて音が良くなるように載せるんです。

(岩崎宏美『あおぞら』'75 M1:ロマンス 試聴)

岩崎 「席を立たないで」という最後のフレーズは、本当は違うメロディだったようなのですが、当時譜面を読めなかったので、こんな感じかなーと歌ったら、筒美京平さんが、「それでもいいですよ」って(笑)。私も最近聞いたんですけれど、「ロマンス」はバラードだったんですって。ヴィレッジ・シンガーズのメンバー(ベース)でもあった当時のディレクターの笹井(一臣)さんが、メロディがいいのでアップテンポにしましょうって。それで2曲目のシングルにしたらしいんです。このレコーディングをした翌日に「スター誕生!」で歌わなければならなくて、あの当時は3ヶ月に1枚ずつシングルを出していたので、レコーディングが終わって、(B面になった)「私たち」という曲と、どっちをA面にするか、多数決で決めて1票差で「ロマンス」に決まりました。私は、あの頃は朝の番組も多かったので、「ロマンス」にしました。「私たち」の方がキーが高かったので難しいかなと思って。

岩崎宏美・井谷哲也

ー阿久悠さんの歌詞の世界観ってちょっとした危うさがありますよね。

岩崎 筒美先生は、「16歳で“息がかかるほど そばにいてほしい”という歌詞は大人っぽすぎる」とおっしゃっていました。でも阿久悠先生は、「岩崎くんが歌うと色っぽい歌詞もさわやかに聞こえる」とおっしゃって。それで「ロマンス」がA面になりました。レコーディングの後に振付の先生のところに行き、振付を教えてもらうんですけれど、さっき歌った歌だから、まだ曲が全然頭に入ってなくて(笑)。次の日に番組で歌ったけれど、2、3回NGを出した悲しい思い出があります。

井谷 デビューされた頃、高校生でしたから、私も小遣い月3000円の時代で、岩崎さんのアルバムは買えませんでした。ですから一部は後追いで買ったんです。岩崎さんの歌を初めて聴いたのを良く覚えてるのは、大学受験の歳だったからなんです。受験勉強が始まった頃に聴いて、かわいいし、やたら歌がうまいって。

岩崎 コンサートには、一人でいらしてました?

井谷 一人で行くか、友達2、3人と。

岩崎 一人で来る人が多かったんですよ。たぶん友達に、岩崎宏美のファンと言えなかったんじゃないかと(笑)。

井谷 そんなことないですよ(笑)。僕は新入社員の頃は、寮でカセット・テープを友達と聴いていました。その頃ギターでパンドラの小箱のイントロをコピーしていた友人が今テクニクスのターンテーブルの設計やってたりします(笑)。

岩崎 そうなんですか。でも山口百恵さんとか、桜田淳子さんにしても、「俺は山口百恵が好き」とか「淳子が好き」とか言っていても、私の名前は、レコードを持っていても言わないようなタイプの人が多かったんじゃないかと(笑)。

井谷 私は大学では電気工学が専攻で、友達はみんなエンジニアの卵だったのですが、宏美さんのファンが多くて、最初はそういう友達からテープにダビングしてもらって聞いてたんです。さっきの話になるけど、こういう、エンジニアとか、オーディオに関わる人に響く声、音なんですね。

岩崎 嬉しいですねえ。エンジニアの卵の人たちに聴いていただいていたなんて。

井谷 オーディオに係わっているエンジニア達には、皆、自分の中に身にしみた音のイメージみたいなのがあって、それを基準に音を決めたりするので。きっとだから、そういう意味において宏美さんは日本のオーディオ業界に影響を与えていると思いますよ。

ーでは次に最新の作品を聴いていただきましょうか。

試聴機材:ST-G30 SU-G30 SB-R1

岩崎 では「Piano Songs」から「聖母たちのララバイ」を。

井谷 実はあのST-G30の中にはメモリーがあって、CDも取り込むことができ、それをネットワークでスピーカーに飛ばすんです。

岩崎 そうなんですか。

井谷 CDって回しながら再生するでしょ、その振動が音に良くないんですよ。あとCDは連続して読んでくから、埃がついたりすると、データを読めないことがあるんですね。そうすると1個前のデータと次のデータの間を埋めるとか、やるんですけど、音質が劣化してしまいます。この機械の場合は、データが正しく読めなかったところをもう一度読むんです。で、正しいデータを全部つなぎ合わせておいてからメモリーに入れるんです。だから普通にCDを聞くより音がいい。

岩崎宏美

岩崎宏美 & 国府弘子『Piano Songs 』'15 M2:聖母たちのララバイ

岩崎 「聖母たちのララバイ」のセールスが100万枚を超えたという時に、川崎のプレス工場に行って、“100万枚ありがとうございます”みたいな写真を撮ったことを覚えています。ただ、その当時は毎週火曜日に、やしきたかじんさんやオール阪神・巨人さんと毎日放送の「ヤングタウン」の生放送をやっていたので、「聖母たちのララバイ」が主題歌だった「火曜サスペンス劇場」を見たことがなかったんですよ。最終便で大阪に通っていたら、「今の歌いいですね、好きです」とサラリーマンの方によく声をかけていただいて、それが「聖母たちのララバイ」でした。

井谷 私は大阪なので当時の放送を聞いていましたよ。よく大阪人のノリについてこれるなあと感心していました(笑)。今後はどのようなご予定ですか?

岩崎 最近、オーディションを受けてディズニーのお仕事させていただいたんです。「美女と野獣」の実写版映画の吹替で。実は昨日試写会に行ってきたんです。録音する時は全部単独で録っているんですよ。それで、ミックスは全部アメリカだったんですね。なので、どういう状態で戻ってくるのか、昨日映像を見るまでわからなかったんですけれど、とってもいい音で。さすがディズニー。映像も音も贅沢でしたし、ミックスや、本当に綺麗な日本語や、響きがある自分の声が、ポーンと乗っていた時は感動して涙が溢れました。私はポット夫人の役だったので、ベルと野獣がダンスをする時に流れる「Beauty and the Beast」は、とても素晴らしくて。サントラ盤もオススメです。

ー岩崎さん、このシステムでお聴きになっていかがでしたでしょう。

試聴機材:ST-G30 SU-G30 SB-R1

岩崎 耳がリセットされましたね。耳っていい音を聞くと、音を覚えるんですよね。何年か前にバリー・マニロウと一緒にラスベガスで歌ったことがあるんですけれど、その時のモニターの音が信じられないほどよくて、今もそれをしっかり覚えているんです。

井谷 今の若い方はヘッドフォンやイヤフォンで聴くことに慣れている人が多くて、こうして空気を揺らしている音を知らないので、我々もこういう設備をつくって体験していただいています。まずはそこからですね。

岩崎宏美・井谷哲也
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