Technics×「RSD Drops」特集|CD世代のくるりが語るアナログレコードの趣

アナログレコードの祭典「RECORD STORE DAY」から派生したイベント「RSD Drops 2021」が、6月12日と7月17日の2日間に全世界のレコードショップで開催されます。これを記念して、今年の「RECORD STORE DAY JAPAN」のオフィシャルアンバサダーを務めるくるりにインタビュー。Technics(テクニクス)の最新ターンテーブル「SL-1200MK7」を囲みながら、レコードにまつわるエピソードや、自身が愛聴しているレコードなどについて語ってもらいました。


― 最初にお二人がレコードを最初に触った頃の話を聞かせてもらえますか?

岸田繁(Vo, G) 家にオーディオのセットがあって、日曜日になると親父がそこでレコードを聴いていました。子供が触れる場所には置かれていなかったので手は届かないんですけど、ミキサーにつまみがいっぱい付いていたので触りたかったですね。親父はチャイコフスキーとか、スコット・ジョプリンとか、ハワイアンとかをレコードで聴いていたのを覚えています。

佐藤征史(B, Vo) 自分が子供のときに一番聴いていたのは、当時テレビで観ていた「母を訪ねて三千里」や「快傑ライオン丸」の曲のLPとかですね。自分たちの世代はみんなそうだと思いますけど(笑)。自分は幼稚園の頃からレコードに針を落とすってことができていたので、何かの付録だったウルトラマンがしゃべっているソノシートなんかも聴いていました。レコードは遊びの道具でした。

岸田 子供の頃は、普通に最初から盤をこすってたよね。逆回転とかもしてたしな。

佐藤 怒られながらね。中学生になってひさしぶりにターンテーブルを使おうとしたら、壊れてました。親に悪いことしたなと。それぐらいレコードは当たり前のものでしたね。自分が小学校低学年の頃は、姉も光GENJIをレコードで聴いてましたし。

岸田 小学生の頃に放送委員みたいなものをやったことがあって、掃除や下校のときに音楽を流すんですけど、放送室に「みにくいアヒルの子」みたいな童謡や童話が入っているドーナツ盤がいっぱい置いてあって、それで友達といたずらをするわけですよ。機械でレコードを逆再生してゲラゲラ笑って、それをカセットテープに録音したり編集したりして遊んでましたね。あとセルゲイ・プロコフィエフの交響的物語「ピーターと狼」の曲が好きだったので、そのドーナツ盤を自分でダビングして聴いていました。

― その後、自分でレコードを買っていた時期ってあります?

岸田 物心が付いたときにはもうCDが出ていたんで、もっぱらCDですよね。もしくはカセットテープか。レコードは高かったし、あんまり買えなくて。

佐藤 自分もなかなか買えなかったんですけど、大学生になってバンドを始めた頃に、母親の実家を建て替えるってことになって。そのとき母親の弟が昔聴いていたレコードがいっぱい出てきて、それをもらったんですよ。当時「俺、CD◯枚持ってる」と自慢している同級生もいましたけど、自分の手元にはたまたまレコードが来たから、休みの日に1枚ずつ聴いてみたりして、いまだにそんなことをやっていますね。「今日は家でのんびりしようかな」ってときにかけるものがCDではなくてレコードという感覚は、その頃から変わってないかもしれないです。

― そのときもらったレコードってどんなものだったんですか?

佐藤 1970年代のものばっかり。ライ・クーダーが大量にあったかと思えば、Deep Purpleとか矢野顕子さんとか、いろいろでしたね。The Allman Brothers Bandもその中にあったから、西海岸のほうの音楽を聴くようになったきっかけにもなりました。

― The Allman Brothers Bandで売れていたものだと「Eat a Peach」?

佐藤 そうです、そうです。京都でバンドを始めた頃なので、1995年とか96年あたりによく聴いていましたね。

― その頃って同級生がDJをやってるとか、DJのサークルがあるとか、そういう時代じゃないですか。

佐藤 いましたね。

岸田 そうそう。アシッドハウスが流行っていて、ダンスミュージック系のレコード屋さんも京都には多かったな。僕の家の近所にも中古レコード屋があったんで、そこに入り浸ってて。1993、94年って「レコードをたくさん持ってるのはカッコいい」みたいに思い始めた頃なんですけど、全然お金なかったんで、中古のレコードしか買えないわけですよ。新譜のCDは高くて買えないから、TSUTAYAでレンタルしてきて、メタルテープにダビングするしかないけど、レコードなら傷み具合なんかによっては名盤が150円で買えたりする。だから、その中古レコード屋でわざわざCDで買わへんタイプの音楽を買ってましたね。Uriah Heep、Blue Öyster Cult、Camelみたいなプログレを。当時、プログレは流行ってなかったから安かったんです。あとは10㏄の「びっくり電話(How Dare you!)」、ELO(Electric Light Orchestra)とか、Clusterみたいなジャーマンロックもね。

― その後、2000年代半ばくらいからレコードのリリースがかなり減っていきますが、2010年代半ばからまた盛り上がってきて、そのまま今も伸びています。そうなってくると、くるりのレコード作品もまた反響が大きくなってきたのかなと思いますが、それについてはどんなふうに感じていますか?

佐藤 今、またお店でCDと一緒にレコードが並んでるのはいいなと思うんですけど、変な話、タピオカブームみたいなもんやと思うんですよ。タピオカって昔も流行ったことがあったし、最近もまた流行って。でもそうなることは悪いことじゃなくて、何回も流行るってことはずっと好きな人がいるからやと思うんですよね。レコードで音を聴くのが好きという人は一定数、ずっといますから。今レコード買ってる人のうち、実際に音を聴いている人がどれくらいいるのかはわからない。でも、それも悪いことじゃないと思います。自分たちのようなレコードを出す側の人間からしたら、ジャケットが大きくなって、音もアナログの音になるので、宝物みたいな感覚なんですよね。だからアイテムとして欲しくなる感覚もわかります。それにCDしか聴いたことない人がアナログを聴いたらびっくりするとは思うし、その感覚がずっと残って続いていくことはいいことだなと。

― ブームの中でレコードと出会った人の一部が、本当にレコードを好きな人になるから、レコード文化が残っていくのかもしれませんしね。それに僕も家でレコードを飾ってますけど、レコードって飾りたくなるものですよね。

岸田 うん。アナログはデカいのがいいですよね。邪魔にもなるけど、「何かを1つ買う」という感じがして、すごくいいと思います。The Beatles「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」を買ったときの“買った感”はすごいですからね。

佐藤 2020年に自分たちが出した「大阪万博 / Tokyo OP」の12inchレコードなんて、各面1曲ずつしか収録されていなくて。それを45回転で聴けて、「すごい贅沢してるな」と自分で思いました。それを聴いて、同じような感動を味わってくれている人がいることもうれしいですし、そこがレコードのよさですよね。

― 今回はお二人にTechnicsの最新ターンテーブル「SL-1200MK7」を体験してもらうんですが、そもそも「SL-1200」シリーズを使ったことはありますか?

岸田 家で使ってますよ。

佐藤 自分たちのスタジオに置いてあるのもTechnicsですね。

― この「SL-1200」シリーズについてはどんなイメージを持っていますか?

岸田 カッコいいですよね。ロゴもいいし、頑丈で壊れないし。レコードプレイヤーってよく壊れるイメージがあるんですけど、でもこれは壊れにくい。

佐藤 家に置いておくレコードプレイヤーは家具っぽい木目調のデザインが多いイメージですが、Technicsの「SL-1200」はどこに置いてもバランスが取れそうな感じで、安心感がありますね。自分らはDJとかできへんけど、ターンテーブルの上に乗せるスリップマットに憧れて、物販用にTechnics対応のスリップマットを作ったこともあります。あと、見た目のメカメカしさも好きです。

岸田 メカメカしいものはいいんですよ。カッコいい。

― CDが光っていてカッコいいみたいな話と同じですね。

岸田 もう世代やと思いますね。光りもんに弱いんですよ。鯖寿司とか。

佐藤 コハダも大好きですしね。

― これまでボディはブラックのみでしたが、5月には新色のシルバーも出ました。

岸田 いいですね。僕は世代的なものなのか、黒光りしているものよりシルバーのほうが好きなんですよ。仮面ライダーはスーパー1がカッコいいと思う。

― では実際に「SL-1200MK7」でレコードを聴いていただきましょう。今日は今回の「RSD Drops」でリリースされるくるり「天才の愛」「thaw」のレコードのサンプル盤を持ってきてもらったので、そこから1曲ずつ。

岸田 じゃあ、(「天才の愛」から)「I Love You」と。

佐藤 (「thaw」からは)「鍋の中のつみれ」にしようかな。

― (試聴を終え)2曲聴かれてみて、いかがでしたか?

佐藤 今日のシステムって、ターンテーブルだけじゃなくてスピーカー、アンプもTechnicsなんですね。このシステム自体、体験するのが初めてだったんですが、違和感なく聴けてすごくよかったです。「I Love You」は、年代物のレコードとはまた別の、自分が思い描いている通りの新品のレコードの音がしていいなあと思いました。

岸田 「天才の愛」は、特にサラピンのアルバムなのでね。サラピンの機材にサラピンの音って感じがして、そのままの素直な音がしました。「鍋の中のつみれ」のほうは年代物の機材を使ったレコーディングだったので、その雰囲気もしっかり出ていたし、Technicsといい感じにマッチしているなという印象でした。なじみがいい。

佐藤 ミックスした音がそのまま鳴っている感じがして、僕も「そういえばこんな音で録っていたな」とスタジオの空気感を思い出しました。この曲はニューヨークのThe Magic Shopという、今はもうなくなっちゃったんですけど、デヴィッド・ボウイが最後の作品をレコーディングしたような由緒あるスタジオで録ったので、そのときの懐かしい感じがよみがえりましたね。

RECORD STORE DAY JAPAN
毎年4月の第3土曜日に世界で同時開催されるアナログレコードの祭典。2008年にアメリカでスタートし、現在世界23カ国で数百を数えるレコードショップが参加を表明している。日本での運営は東洋化成が担当。レコードショップでは数多くのアーティストのアナログレコードの限定盤やグッズなどが販売される。また世界各地でさまざまなイベントも行われ、毎年大きな盛り上がりを見せている。今年は世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け開催時期を調整し、「RSD Drops」として6月12日、7月17日の2回に分けて行われる。
PROFILE / くるり
1996年に立命館大学の音楽サークル「ロック・コミューン」内で岸田繁(Vo, G)、佐藤征史(B)、森信行(Dr)により結成。1998年10月にシングル「東京」でメジャーデビューを果たす。2007年より主催イベント「京都音楽博覧会」をスタートさせたり、「ジョゼと虎と魚たち」「奇跡」といった映画作品の音楽を担当したりと、その活動は多岐にわたる。2017年には、岸田による交響曲「交響曲第一番」の初演の模様を収めたCD「岸田繁『交響曲第一番』初演」がリリースされた。幾度かのメンバーチェンジを経て、2011年から岸田、佐藤、ファンファン(Tp)の3人編成で活動していたが、2021年3月にファンファンが脱退。岸田と佐藤の2人体制で活動していくことが発表された。2021年4月に岸田、佐藤、ファンファンの3人体制で制作した最後のアルバム「天才の愛」をリリース。6月に「くるりライブツアー 2021」を開催する。
SL-1200mk7

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