「Technics × RECORD STORE DAY」

4月22日に開催されるアナログレコードの祭典「RECORD STORE DAY」。“レコード店を大切にすること”“より多くの人にレコード店に足を運んでいただくこと”を基本理念に、東洋化成の主催、Technicsによる協賛のもとレコードショップで数多くのアーティストのアナログ作品が販売されます。

これを記念し、自身も「ひかりとだいち love SOIL&"PIMP"SESSIONS」名義の楽曲「eden」で同イベントにエントリーしている満島ひかりさんにインタビュー。東京・幡ヶ谷のレコードショップ・Ella recordsにて、満島さんにレコードとの出会いやその魅力について語っていただきました。後半には、「eden」の演奏およびアレンジを手がけたSOIL&"PIMP"SESSIONSの社長さん(Agitator)をお迎えした2人のインタビューを掲載しています。

取材・文 / 三宅正一 撮影 / 平間至
ヘアスタイリング / 新宮利彦 メイクアップ / MICHIRU
取材協力 / Ella records

満島ひかり ソロインタビュー

レコードをきっかけにまた音楽を始めた

ー 「RECORD STORE DAY」のミューズ就任おめでとうございます。この催しについて、どのような印象をお持ちですか?

2017年に、大沢伸一さんのプロジェクトであるMONDO GROSSOにボーカルで参加させてもらって、「ラビリンス」という曲を発表したんですけど、この曲はその年の「RECORD STORE DAY」でリリースすることを前提に作られた作品だったんです。まず、ボーカルが私であることを伏せてラジオでオンエアをして。「RECORD STORE DAY」でリリースした「ラビリンス」の12inchレコードにも私の名前はクレジットされていないし、ジャケット写真も写っているのが誰なのかわからないデザインになっていて。楽しい企画でした。舞台や映画の役で歌うことはありましたが、歌唱することからはずっと離れていたので、ある意味ではレコードをきっかけにまた音楽を始めたような感覚があるんです。

ー Technicsは「RECORD STORE DAY」をスポンサードしているのですが、Technicsというブランドに対してはどういうイメージを持っていますか?

Technics……ターンテーブルだったり、ヒップホップ寄りのイメージがあります。もちろんTechnicsのロゴは知っているんですけど、正直機材のことについては全然わかっていなくて。これから改めて、音楽やモノを作ることを学んでみようと考えているので、機材についても少しは勉強したいと思っています。

ー 満島さんは普段からレコード屋にはよく行かれるんですか?

たまに行きますよ。Ella recordsは前に近所に住んでいたことがあって一度だけ来たことがあります。ここに必ず行くというレコード屋さんはないけど、散歩ついでにふらっと立ち寄ったりします。

ー どれくらいレコードを所有してるんですか?

古いレコードをいっぱい持っていたんですけど、コロナ禍になったタイミングで一気に断舎離しました。なので、今はかなり少なくなっちゃいました。古いレコードの中には触っているとザワザワする念を感じてしまうようなものもあって。

ー それは満島さん自身の思い入れも入ってるからでしょうね。

そうだと思います。最近、お気に入りのレコード入れをアメリカの木工デザイナーの方に作ってもらったんです。そこに入る分だけのレコードを持ち続けようかなと思ってます。

ー 一緒に生きていけるような感覚でいられるレコードだけを近くに置いておきたい、と。

そこまで重い気持ちはないけど、そうですね。そもそも同じアルバムを繰り返し聴くタイプでして。

ー 特定の音楽の中に深く入り込んでいく、みたいな感じですか?

そうなんです。映画も一緒で、同じ作品をずっと観ていたい。1年間に何本も観るより、1本の映画を繰り返して観ていたいという。そうするとその作品が自分の日常と絡みだしていくのがすごく面白いんです。

レコードをかける時間に癒やされる

ー 普段はどんなときにご自宅でレコードをかけるんですか?

朝も聴きますし、仕事から帰宅したときもよく聴いてます。今の時代は、周りにデジタルのものがあふれているから、アナログなものに積極的に触れたいのかもしれない。自分でレコードプレイヤーに針を落としてボーッとしながら音楽を聴いて、再生が終わってるのに気付かないで慌てて針を戻すとか、そういう時間に癒やされている気がします(笑)。

ー レコードで音楽を聴く、その所作にも癒やされるというか。

そうなんです。そうだ、今年のお正月に俳優の後輩たちが家に遊びに来て「ヤバい! レコードあるじゃん! 聴いていい?」って勝手にレコードをかけ始めて、みんなで踊ったりしてました(笑)。一緒に遊びに来ていた5歳の子も踊り出したりして。

ー パーティの中にもレコードがあるんですね。

子供たちのレコードに対する反応は見ていて面白くて、完全にデジタルにあふれた時代なんだなと感じます。モノに触れて当たり前と思って生きてきた中で、今触れられないものが多くなってきて「触れたい!」という気持ちに私はなったりするけど、子供たちは紙ジャケットのCDを触って、もちろんレコードも触れて聴いて「え、紙で作ってるの?」とか、ビックリするような言葉を返してくるので(笑)。そういうのもすごく新鮮ですよね。

満島ひかり×社長(SOIL&"PIMP"SESSIONS)インタビュー

2組の出会い

ー 今年の「RECORD STORE DAY」では、満島さん、三浦大知さん、SOIL&"PIMP"SESSIONSの音楽プロジェクト「ひかりとだいち love SOIL&"PIMP"SESSIONS」の楽曲「eden」がレコードでリリースされます。まずはこのプロジェクトが立ち上がった経緯から教えてください。

満島ひかり 今、12歳の頃から私のことを知っているワダさんという方と仲間になってお仕事をしているんですけど、彼女がSOIL&"PIMP"SESSIONSをこよなく愛しているんです。本当に「ソイルって最高で好き!」みたいな感じで(笑)。

社長(SOIL&"PIMP"SESSIONS) めちゃめちゃうれしいですね。

満島 それで今回、自分たちでレーベルを持って、音楽を楽しんでやってみようかとなったときに、ワダさんと「ここはソイルでしょ!」「作ってくれるかな?」「聞くだけ聞いてみよう」という話になったんです。思いきってオファーしてみたら「作ってくれるかも」となって、「それなら大知とも歌いたいよね!」という話になりました(笑)。そうやって最初からてんこ盛りで始まった感じです。さらに同時期に「『ルーブル美術館展』の曲を作りませんか?」というオファーまでいただいて、そういう機会があるならたくさんの人に曲を聴いてもらえるかも、ということでお引き受けしました。

ー 社長はどうですか? 今のエピソードを聞いて。

社長 最高にうれしいですよ。まず、ワダさんがMONDO GROSSOと並んで僕たちの作品を聴いてくださっていることにも感謝を申し上げたいですね。アシッドジャズの文脈から言っても、日本でジャズバンドをやるうえでも、僕らはMONDO GROSSOから大きな影響を受けていますし、大沢さんとはずっと仲よくさせていただいていて。そんな偉大な方と同じように扱っていただき、さらに自分たちの作品がひかりちゃんの耳に入って今日を迎えられていることがとてもうれしいです。

ー それまで、満島さんとソイルのメンバーは直接的な面識はなかったんですか?

社長 直接的な面識はなくて、去年の9月にJ-WAVEのイベントで、いとうせいこう is the poet(ITP)というプロジェクトのライブに僕が参加させていただいたときに、ひかりちゃんも参加していて。そこで初めてちゃんとご挨拶した感じですね。

満島 そうですね。去年、私もITPの皆さんといくつかフェスを回らせてもらって、その中でお会いしました。ご挨拶と同時に「今度、よろしくお願いします」という感じで。

ソイルが魔法みたいに音楽にしてくれた

ー 「eden」の楽曲制作はソイルのメンバーと一緒に満島さんもスタジオに入って進めていったそうですね。

満島 はい。私は楽器が弾けないので、とにかく抽象的なアイデアとイメージを伝えることしかできないんですよ。でも、ソイルの皆さんはそれを聞いて「なるほど、わかってきました」って魔法みたいに音にしてくださって。制作、録音、ミックスまでの一連の流れを見ていると、素晴らしいミュージシャンの人たちって美味しい日本酒が生まれる米所の良質な水みたいだなと思いました(笑)。

ー それこそ、社長の地元の福井はまさにそうですよね(笑)。

社長 ありがとうございます(笑)。

満島 タブ(ゾンビ)さんとは魔除けの話とかしかしてないんですけど(笑)、それも含めて現場の空気がずっと伸びやかで、アイデアもとめどなく出てくる感じでした。なんというか、社会によって遮断されない素朴な空気がずっと流れてましたね。ソイルの皆さんが形のないイメージを形にするために「水の上も歩けるから、歩いちゃおうよ!」と導いてくれて、すごいなあとずっと思ってました。

ー とても幸福な時間だったんですね。結果的に満島さんと大知さんの歌唱の交歓も含めて、まさにエレガンドで離れがたい緊張感を帯びた美しい楽曲が完成したと。

社長 はい。最初はひかりちゃんから抽象的なイメージを聞きつつ、そこからどんなアーティストが好きかとか、そういう話もして。ひかりちゃんに対してすごいなと思ったのは、自己表現を最終的にどのように形にしたいかという画を、身体表現も含めて立体的に共有してくれることですね。

ー 言葉だけではなく、身振り手振りも交えて?

社長 そう。だから、音楽的なジャンルとか、ビートとか、テンポがどうと言うよりも、ひかりちゃんがどんな自己表現をしたいかをすくい上げるのが僕らの至上命題なんだろうなと思ったんです。

満島 音楽について説明する言葉を持ってないので、ジェスチャーしながら「こういう感じで! こうで! こうなんです!」と伝えるしかなくて(笑)。

社長 「こっからこれで、こう!」みたいなね(笑)。

満島 「こうなって、ワーッ!となってから、私たちは消えるんです」とか(笑)。こんな感じで大丈夫かな?と思っていたら、丈青さんが「ああ、こういう感じですね」とピアノを弾きながら提案してくれて。「まさにそういう感じです!」みたいな(笑)。すごいなと思いました。

社長 「eden」の骨格になっているのはそのときのやり取りから生まれたものなんです。

満島 丈青さんがピアノを弾きつつ「ここで、みどりん、ドラム弾いてみて」と振ったり、社長が「いや、ここはもうちょっと音を抜いたほうがいいと思う」と言うと、丈青さんが「OK」って反応して。そうすると少しずつ曲ができあがっていくんです(笑)。

社長 最初にスタジオでミーティングしたときの会話からいきなり丈青のコードが生まれたんですよ。

満島 贅沢にもデモを3つ作っていただいて。社長、タブさん、丈青さん、それぞれで1パターンずつ作っていただいたんですね。今回、大知と歌うのは丈青さんに作っていただいた曲なんですけど、せっかく3つあるので、今後残りの2曲も完成させたいです(笑)。

社長 やるしかないっしょ(笑)。

満島 で、これはズルい提案なんですけど、社長が作った曲は私1人で歌いたくて、タブさんの曲はまたほかのアーティストさんと2人で歌いたいと勝手に思っています(笑)。

社長 だから、こうやってね、ひかりちゃんの中ではどんどん世界が広がっていくんですよ。そこに自分たちも乗っからせてもらって、その世界で遊ばせてもらっているような感じです。

社長が語る、満島ひかりの魅力

ー 社長から見て、シンガーとしての満島さんの魅力や求心力をどんなところに感じてますか?

社長 まずはやっぱりこの存在そのものですよね。表現をすることに命を懸けている方だから、今まで出会ったどんな方とも違う、ひかりちゃんならではの表現に対する情熱、熱量がひしひしと伝わってくる。僕らはボーカルがいないバンドなので、ひかりちゃんの声であり、身体表現も含めて僕らと一緒にどんな音楽を作れるんだろうという期待値がすごく大きかったし、すごく制作を引っ張ってくれた。とても楽しかったし、やりやすかったです。

満島 (しみじみと)ああ、よかった……。

社長 今までにない回路がつながった感じがありました。

満島 私もイメージの共有ができた瞬間に「通じた! 光が見える!」と感動したのを覚えています。私も大知も……大知は特に身体表現をダイナミックにできる人なので、私はずっとこの曲が映像になるときのことも考えていて。それで、歌が存在していないセクションも長くしてほしいとリクエストしたんです。

ー インタールードをあえて長くした?

満島 そうです。最終的に私と大知の2人がソイルのサウンドの中で体を解きながら、肉体が踊り続けるというイメージがあって。根が花になっていくのではなくて、花が根に還っていきながら、世界に広がっていく、そういう曲にしたいと思ったし、ソイルと大知のおかげで具現化できたと思います。まだあとソイルとは2曲ありますので(笑)、私はいずれかの曲のMVでソイルの皆さんに踊ってほしいんです。

社長 おおっ(笑)。

満島 メンバーそれぞれのアップとか、ドラマなソイルの顔をひき出したいんですよね。

社長 それをディレクションできるのはひかりちゃんしかいないね(笑)。

満島 やりましょうね! 想像を形にする、そのためにレーベルを持ちましたので。

社長 おおっ! それはもう、残りの曲も形にするしかないですね。

満島 よろしくお願いします。ミックスとマスタリングの違いもちゃんとわからない1年生ですが(笑)、音楽を学んで愛してまいります。

ひかりとだいち love SOIL&"PIMP"SESSIONS 「eden」

2023年4月22日(土)発売
rhapsodies
[12inchアナログ] 税込2750円 / RPDS-00100

PROFILE / 満島ひかり(ミツシマヒカリ)
1985年11月30日、鹿児島県生まれ、沖縄県育ち。1997年にダンスボーカルグループ・Folderでデビューし、「モスラ2 海底の大決戦」で映画に初出演。Folder5の活動を経て演技の道へ進み、これまで多くの映画・ドラマ・舞台・コマーシャルに出演。さまざまな賞も受賞している。主な作品として映画「愛のむきだし」「川の底からこんにちは」「悪人」「夏の終り」「駆込み女と駆出し男」「愚行録」「海辺の生と死」や、ドラマ「開拓者たち」「Woman」、「ごめんね青春!」「トットてれび」「カルテット」などがある。最近では、Netflixで配信中の主演ドラマ「First Love 初恋」が好評を博している。また俳優業として並行して音楽活動も展開。2017年にはMONDO GROSSOが「RECORD STORE DAY JAPAN 2017」に合わせてリリースした12inchアナログ「ラビリンス」に、ボーカリストとして参加し話題を集めた。同年8月にはEGO-WRAPPIN'をプロデューサーに迎えた楽曲「群青」をアナログ盤でリリース。そして2023年3月、三浦大知とSOIL&"PIMP"SESSIONSを迎えた音楽プロジェクト「ひかりとだいち love SOIL&"PIMP"SESSIONS」を始動させ、シングル「eden」を配信リリース。本作は4月開催の「RECORD STORE DAY JAPAN 2023」でアナログ化された。
PROFILE / SOIL&"PIMP"SESSIONS(ソイルアンドピンプセッションズ)
2001年、東京のクラブイベントで知り合ったミュージシャンが集まり結成。ライブを中心とした活動を身上とし、確かな演奏力で注目を浴びる。2005年にはイギリス・BBC RADIO1主催の「WORLDWIDE AWARDS 2005」で「John Peel Play More Jazz Award」を受賞した。以降、海外での作品リリースや世界最大級のフェスティバル「Glastonbury Festival」「Montreux Jazz Festival」「North Sea Jazz Festival」などに出演。これまでに31カ国で公演を行うなど、ワールドワイドに活動を続けている。2022年6月に約2年半ぶりとなるオリジナルフルアルバム「LOST IN TOKYO」をリリース。2023年に現体制となってから20周年を迎える。
SL-1200G

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