さまざまなクリエイターに話を聞き、音楽と創作活動の分かちがたい関係を探る企画「Music & Me ~クリエイターが語る音楽と私~supported by Technics」。第4回は昨年12月に京都・四条通りにオープンしたTechnicsのカフェ・Technics café KYOTOの内装デザインを手がけた建築デザイナー・関祐介をゲストに迎えてお届けする。学生時代からTechnicsのターンテーブル「SL-1200MK3」を愛用し、京都のスタジオではTechnicsのコンパクトサウンドシステム「SC-C70MK2」で音楽を楽しんでいるという関に、音楽と建築デザイナーという仕事の関係性、Technics café KYOTOの空間デザインに込められたこだわりなどを語ってもらった。
取材・文 / 下原研二 撮影 / YURIE PEPE
パンクから学んだこと
ー 関さんは子供の頃どんな音楽を聴いて育ったんですか?
母親が家で流してた光GENJIとかかな。初めてCDを買ったのは小学生の頃で「ドラゴンクエスト3」のサントラでした。「ドラクエ3」はただ単にゲームが面白いからやってたはずなんだけど、CDを買うってことは昔から音に対しての意識があったのかな。
ー パンクもお好きだったとか。
そうですね。パンクはけっこうハマって一時期ずっと聴いてましたから。最初に触れたパンクはHi-STANDARDで、初期の作品はよく聴いてました。そこから昔の音楽を掘り下げていく中でSex Pistolsに出会うんですよ。彼らの作品にはジェイミー・リードのグラフィックが使われていたり、ファッションで言えばヴィヴィアン・ウエストウッドやマルコム・マクラーレンが関わっていて、音楽だけじゃなくてビジュアル面でも世の中に衝撃を与えましたよね。カルチャーの深さと言うか、そういう広げ方もあるんだと教えてくれたのがパンクだったと思います。
空間デザインの道へ
ー 音楽好きの少年だった関さんが、建築デザイナーを志した理由は?
僕は高校生の頃に阪神大震災を経験しているんです。崩壊した街が少しずつ復興していく、要は0からほぼ10になるまでの過程を見たんですね。そのときに「物ができていく、作られるってすごいことなんだ」という感覚は無意識に植え付けられた気がします。その経験もありつつ、当時付き合っていた彼女のクリスマスプレゼントを探して「関西ウォーカー」を読んでいたらイームズの椅子に目が留まって。その頃の僕は家や学校にある椅子しか見たことがなかったから「椅子ってこんなんやっけ?」と衝撃を受けたんです。次の日、美術の先生にその話をしたらイームズを筆頭にいろんなデザイナーが手がけた椅子を教えてくれて。さらにその先生の「関くんが履いているそのスニーカーも誰かがデザインしているんだよ」という言葉を聞いたときに、自分の身の回りにもデザインはあふれていて、それは誰かが作っているんだと知ったんです。それで、物を作れるデザイナーになりたいと思うようになりました。
ー では、その頃は椅子のデザイナーを目指していた?
そう。だから最初は美大のプロダクト学科を目指していたんですよ。だけど浪人中に先輩からル・コルビュジエを教えられて、「椅子を作りたいなら空間もできないとダメじゃない?」と言われたんです。まあ、その先輩は2浪中だったんですけどね(笑)。でも2浪中の先輩の言葉って重たいし、自分が通っていた服屋は売ってる洋服だけじゃなく店内の雰囲気も含めてカッコいいなと気付いて。それで空間デザインの道に進むことを決めました。
どの空間、素材にもフィットする
ー 京都のスタジオではTechnicsのコンパクトステレオシステム「SC-C70MK2」を普段から使っているそうですね。
はい。仕事中はほかのスタッフもいるし、音でコンディションが左右される気がするから基本的に音楽は流さないんです。とは言え無音も嫌だから、無機質で精神状態に影響のないものをと考えたときに英語のラジオにたどり着いて、作業中はずっと海外のニュースを流していますね。土日はスタジオに僕しかいないので、ソファに寝転びながら好きな音楽を聴いてグダグダしてますが(笑)。
ー 休日にリラックスするときはどんな音楽を?
この間はひさしぶりにNujabesを聴いてました。Nujabes、いいですよね。以前海外で日本人は行かないようなローカルなカフェにふらっと入って、たまたまNujabesの音楽が流れていたときは感動しました。特にヨーロッパには好きな人が多いんじゃないかな。あとはPowderというDJの音源もよく流します。僕が設計したスタジオに所属しているアーティストなんですけど好きですね。
ー 「SC-C70MK2」は部屋の広さに合わせて最適なスピーカーの鳴りをセッティングできる「Space Tune Auto」機能が搭載されています。こちらの機能を使われたことは?
知ってはいるんだけど、セッティングした覚えはないから使えてなかったのかな(笑)。
ー (笑)。では設定してお好きな曲をかけてみましょうか。
(カイル・ホール「4Wrd Motion」の試聴を終えて)おお、硬い音が聴き取りやすくなった気がしますね。合ってます?
ー 低域がぼやんとするところを抑えようとしているので、そういう認識で大丈夫です。
よかった(笑)。
ー 「SC-C70MK2」のデザインは、建築デザイナーの視点から見ていかがですか?
どの空間、素材にも合うデザインだと思います。うちのスタジオではスタイロフォームという安価な建材の上に置いているんですけど、リッチになるというか、いい組み合わせに見えますからね。木やコンクリートの空間にもハマるんじゃないかな。あとは角の出方がいいんですよ。ぬるいプロダクトだとアールが付いたものが多いけど、「SC-C70MK2」はステンレスをカットしてしっかりエッジを付けているし、色味も含めていい佇まいをしてる。このスタジオも「SC-C70MK2」があるかないかで空間のクオリティが変わってくると思いますよ。
目に見える部分以外にもこだわりたい
ー 関さんが空間デザインを担当したTechnics café KYOTOについても聞かせてください。デザインを手がけるうえで、Technicsチームとはどんなやりとりをしたんですか?
オファーをいただいた時点では具体的なイメージが固まってなくて、カフェの機能を持たせたい、オーディオシステムを組むから音がちゃんと聞こえる空間にしたいという話でした。彼らも初めてのトライなので、おそらくどのように発注すればいいかわからなかったんだと思います。それに対して、うちは飲食やホテルの経験もあるので、関係性のある方々をこちらからアサインして。コーヒーとフードメニューの監修を小川珈琲、お店で使用する器をNOTA_SHOP、スタッフが着用するユニフォームをクリエイティブディレクターの源馬大輔さんのチームにお願いすることになりました。
ー 建築デザイナーがカフェの要であるコーヒーやカトラリー、スタッフのユニフォームまでディレクションすることはよくあるんですか?
基本的にないですね。メニューや店のロゴは先に決まっていて、最後に空間デザインの相談が来ることが多いので。だからTechnics café KYOTOもそこまで関わるつもりはなかったんだけど、自分が設計する場所である以上は、お客さんに提供するものや、お客さんが触るものは一定のクオリティをクリアしたかった。ありがたいことにうちが設計したからという理由でお店に足を運ぶ人もいるんですよ。それで出てきたコーヒーがおいしくなかったら嫌ですよね。空間や目に見える部分以外でも、1つの体験としてよくないものにはしたくないんです。
Technicsに感じるシンパシー
ー クリエイターとして、Technicsにシンパシーを感じる部分はありますか?
僕が人生初めてのローンで購入したのがTechnicsの「SL-1200MK3」なんです。あのターンテーブルを使っていて思うのは、多くの人が注目しないであろう部分へのこだわり方や意識の仕方。人が気にしない部分にクリティカルな何かを仕掛ける点は、うちが手がけてきたデザインとリンクしていると思います。
ー その“人が注目しないであろう部分”に仕掛けを作るのはなぜなんでしょう。
自分の作品に対して、理解を示してくれる人の質を線引きしたいのかも。気付かない人は気付かないんですよ。言い方は悪いですけど、そういう人は切り捨てる。面白いと思ってくれる感度の高い人とカルチャーを作っていきたい、という思いはありますね。
カルチャーから学んだことをデザインに
ー Technicsというオーディオブランドのカフェをデザインするうえで、音の要素はどの程度意識しましたか?
そのあたりはTechnicsのエンジニアチームに入ってもらって、残響をどう減らすか、素材は何を使うべきかを話し合いました。コンクリートのような硬い素材は音が反響するのでなるべくは使いたくないと思うんですけど、そこは僕の意図を汲み取っていただけました。
ー 店内にテーブルはなく、Technicsのオーディオシステムとベンチのみというシンプルな空間にしたのはなぜでしょう。
テーブルを設置するとどうしてもおしゃべりしちゃいますよね。それってシンプルに一番のノイズなんです。ただのカフェなら大事な要素ですが、Technics café KYOTOの場合は音がプライオリティのトップに来るのでベンチのみにしました。それとTechnicsさんは飲食事業の経験がないので、厨房のスペックも加味してテーブルを設けないことにしたんです。
ー そういった状況も踏まえてデザインを構築していくんですね。関さんが手がけた東京のカフェ・Sniiteも入り口に大きなソファを配置するデザインになっていたので、こだわりの部分なのかなと思っていました。
あれは空間全体のイメージと予算感をSniiteのオーナーと擦り合わせる中で生まれたアイデアなんです。予算は設計条件の1つでしかないので、僕はその条件をどういうふうに扱うかが大事だと考えています。情報のどの部分をフックにして、デザインのメインストリームに持っていくか。僕たちの仕事って造形のセンスが必要だと思われがちだけど、いろんな条件の重なりをどう処理するか、その処理能力が一番重要な気がしますね。
ー なるほど。
その処理作業の際に、自分はどんな音楽を聴いてきたか、カルチャーから何を学んだのかをエッセンスとして加えると、面白いデザインが生まれる。料理みたいなものなのかな。自分が持っているスパイスを入れるだけでおいしくなったり、個性が出たりしますよね。ベタで恥ずかしいけど、そのスパイスはその人が過ごしてきたカルチャーにあるのかなって。自分で言ってて恥ずかしくなってきました(笑)。
Technics café KYOTOの音響で楽しみたい3枚
ー 関さんにはTechnics café KYOTOのオーディオシステムで聴いてみたいレコードを3枚用意していただきました。ロック、パンク、ハードコアとジャンルがバラバラですが、どういうテーマで選んだのでしょう?
なんとなく自分のルーツになっている3枚を持ってきました。パンクにハマっていた頃に「LONDON NITE」(※音楽評論家・大貫憲章が企画した日本初のロックDJイベント)というイベントによく遊びに行っていて。そのイベントはロックやパンク、ロックステディ、レゲエみたいな音楽がたくさん流れていたんですね。その影響もあってレコードではバンドの演奏を聴くみたいな固定観念があるんです。
①V.A「Violent World: A Tribute to the Misfits」
これはThe Misfitsのトリビュート盤で、大学1年生の頃に初めて買ったレコード。当時はトリビュートという言葉の意味をよく理解していなくて、ジャケットが一番カッコいいのを選んで買ってみたら知らないバンドがThe Misfitsの曲を歌っていて(笑)。「金返せよ」と思ったけど調べたら好きなバンドが2組くらい参加していて、なんだかんだ大学時代はよく聴いてました。
②Sedition「DEMO 1989」
これ、カッコいいんですよ。この音響でSeditionを聴けるってぜいたくですよね。ボーカルが何を歌っているのか全然わからないんだけど、こんな音楽が存在するのかって衝撃を受けたのを覚えています。Seditionは独特なアートワークも魅力的なんですよ。ああ、やっぱりめちゃめちゃカッコいいな。もう少しボリュームを上げて聴きたい(笑)。
③ROSSO「1000のタンバリン」
チバさんの音楽はTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの頃から好きで聴いていました。ROSSOのこの曲はHYSTERIC GLAMOURの20周年パーティで流れていて、めちゃくちゃカッコいいなと思ってレコードを購入しました。チバさん、亡くなりましたね。今回の取材に合わせて数日前に東京の家からレコードを持ってきたんですけど、まさかこんなタイミングに当たるとは思わなかった。やっぱりカッコいいな、チバユウスケは。この人の声は本当に唯一無二だと思います(※インタビュー当日、チバユウスケが11月26日に死去したことが発表された)。
ー では最後に、Technics café KYOTOがどのような場所になっていってほしいか、聞かせてください。
夜の時間帯が楽しみですよね。ミュージックバーみたいな場所が京都には少ないので、夜の選択肢の1つになったらいいかな。あとは若者が立ち寄って、知らない人や音楽とつながってくれたら一番うれしいですね。
- PROFILE / 関祐介(セキユウスケ)
- Yusuke Seki Studio主宰のデザイナー。sacai、Kiko Kostadinov、ANREALAGEなどグローバルブランドとの協業をはじめ、Kumu 金沢、Suba soba、Sniiteなどローカルに紐付いたホテル、レストランまで幅広く設計を行う。東京、神戸、京都の3都市に拠点を持ち、京都にはスタジオと町家「せきのや」の2軒を構え、アーティストインレジデンスのような活動にも取り組んでいる。
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Yusuke Seki|http://yusukeseki.com/
sek03 - Yusuke Seki(@sek03)|Instagram|https://www.instagram.com/sek03/