クリエイターが語る「音楽と私」 イラストレーター KYNE & NONCHELEEE に聞くレコードの魅力 「レコードは五感で楽しむことができる」

さまざまなクリエイターに話を聞き、音楽と創作活動の分かちがたい関係を探る企画「Music & Me ~クリエイターが語る音楽と私~supported by Technics」。第3回は福岡を拠点に活躍するイラストレーターKYNEとNONCHELEEEをゲストに迎えてお届けする。iriのジャケットでもおなじみ、モノトーンの線画でクールな表情の女性を描く独自のスタイルで国内外のアートシーンで人気を集めるKYNE。一方のNONCHELEEEも、cero、YOUR SONG IS GOOD、FNCYといったアーティストのビジュアルを手がけ、そのユーモアかつ味わい深いタッチで注目を浴びている。2人の独創的な作風は福岡の地でどのように育まれていったのだろうか? 彼らが運営しているON AIRにて、Technicsのターンテーブル「SL-1200」シリーズの最新モデル「SL-1200MK7」でお気に入りのレコードを聴いてもらいつつ、話を聞いた。

取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 河原諒子 動画撮影 / Ubird

福岡は異ジャンルの人たちともつながれる街

ー お二人はどのような経緯でグラフィックアーティストになられたんですか?

NONCHELEEE 僕は自分のバンドのCDやカセットのジャケを自ら描き始めたのがきっかけですね。そしたらわりとすぐにceroからグッズのイラストの依頼があったり。あとはYOUR SONG IS GOODとかカクバリズム周辺の方々から面白がっていただきバーッと広がりました。ZEN-LA-ROCKさんも、描き始めた時期に「こういう絵を描いてるんです」って会いに行ったらすぐにアートワークを依頼してくださりました。

ー 最初から音楽仲間のネットワークで広がっていった?

NONCHELEEE いや、バンド時代はかなりひもじかったので、ずっと飲食店でバイトもしてたんです。その流れで魚をより知りたくなって、鮮魚店に入って魚の絵を描き始めました。そしたら飲食店の先輩たちが面白がってくれて、看板とかを描かせてもらえるようになったんです。なので、自分は音楽と飲食の2つが軸。めっちゃ端折ってますが、そんなこんなで7年前くらいに独立して今に至ります。

ー KYNEさんは?

KYNE 僕はもともとグラフィティが好きで、高校生のときに独学で絵を描き始めました。18歳くらいで親不孝通りにあるグラフィティ関連のショップやクラブイベントに行くようになって、アパレルの人やミュージシャンと知り合ったんです。そこからTシャツを作ったり、作品の展示をしたりするようになりました。

ー KYNEさんというとポップな作風という印象がありますが、ルーツはストリートなんですね。

KYNE そうですね。ターニングポイントは俳優の村上淳さんが僕の作品を見つけてくれたことです。僕は自分の絵をステッカーにして友達にあげたり、いろんなところに貼ったりしていたんです。それを福岡にDJをしに来た村上さんが偶然見かけて。しかも誰が描いたのか探してくれたんです。実際にお会いしたのは1年後。そこから雑誌で紹介していただいたり、一緒にアパレルを作ったりするようになりました。

ー iriさんのジャケットや、藤原ヒロシさんのミュージックビデオでもおなじみのあの女性を描くスタイルはいつ頃できたんですか?

KYNE 2010年頃です。美術系の大学に進学してアカデミックな勉強もひと通り経験しつつ、同時にグラフィティライターの人たちとも交流していました。当時はわりと写実的というか、写真っぽい絵を求められることが多かったんですが、個人的にあまり面白みを感じなくなってきて。学校で習っていた日本画や興味があった版画の要素を混ぜていった結果、今の画風になりました。グラフィティやストリートのカルチャーには「1つのモチーフをしつこく続ける」っていうセオリーがあるんです。名前や文字じゃなく、モチーフをアイコンにして、それがシグネチャーになっていくというか。僕がこのスタイルで描き続けるのはそういったマナーに則ってるからです。

Technicsはいい意味で日本企業っぽくないイメージ

ー お二人にとってTechnicsはどんなイメージですか?

NONCHELEEE 王道という感じです。

KYNE いい意味で日本企業っぽくないイメージがあります。なんかグローバル企業みたい。実際、世界中のDJが当たり前に使ってるし。

ー お二人が初めてゲットしたTechnicsは?

NONCHELEEE 僕、実はTechnicsのアイテムを1個も持ってなくて。自分で買うものは王道を避けがちなんです(笑)。めっちゃピッチを変えられるターンテーブルとか、変なものばっかりで。

ー 関西ゼロ世代に影響を受けてるなら仕方ないと思います(笑)。

NONCHELEEE でもだからこそクラブでTechnicsのターンテーブルを使うとその安定感にビビるんですよ。僕が持ってるターンテーブルに比べると、圧倒的に音のブレが少ない。骨格がしっかりしてて「おおー!」ってなる。

KYNE めっちゃわかる。ちなみに僕はちゃんとTechnicsの製品を持ってますよ(笑)。DJ用のヘッドフォンです。

ー パット部が可動する「EAH-DJ1200」ですかね?

KYNE はい。コンパクトに折りたためるから持ち運びにも便利で。

ー ではお二人に持参していただいたレコードをSL-1200MK7で聴いてみましょう。

KYNEがSL-1200MK7で聴きたいアナログ3タイトル

杏里「MORNING HIGHWAY / GONE WITH THE SADNESS」

これは「COOL」というアルバムのプロモーション用の7inchシングルです。「GONE WITH THE SADNESS」はアルバムの2曲目なんですけど、1曲目からほぼノンストップでこの曲に入っていくんですよ。CDならどこまでが1曲目かわかるんですけど、LPだと溝の切れ目がないからDJで使うのがめちゃくちゃ難しい(笑)。だからこの7inchはDJですごく重宝しています。

矢野有美 「素敵なハイエナジー・ボーイ Eat You Up」

これをDJでかけるとみんな最初は荻野目洋子さんの「ダンシングヒーロー」だと思うんですよ。でも途中で「あれっ?」ってなる(笑)。あの曲はアンジー・ゴールドの「Eat You Up」のカバーなんですけど、これは矢野有美さんという方が同じく「Eat You Up」をカバーした7inchなんです。僕、バブル期にリリースされた外国曲の日本語バージョンが大好きで。この曲はDJでめっちゃ盛り上がります。中古レコード店で偶然見つけました。

プリンス「ポップライフ」

このレコードはTOWA TEIさんにいただきました。以前イベントでご一緒した時に、DJでかけたレコードを何枚かプレゼントしてくださって。僕にとってすごく大切なレコードですね。

NONCHELEEEがSL-1200MK7で聴きたいアナログ3タイトル

Byron Lee & The Dragonaires「Disco Reggae」

これは最初に買ったレゲエのレコード。バイロン・リーというジャマイカの有名なプロデューサーが率いているバンドのアルバムです。 ボブ・マーリーの「No Woman, No Cry」をラジオか何かで聴いて同じ曲のカバーが入ってるから買ったんですけど、なんか想像以上に音がペナペナで。衝撃的なガッカリ体験が逆に自分の中で忘れられない1枚になりました(笑)。高1のとき、古着屋さんで300円で買いました。

V.A.「SUPER FRESH」

レゲエを知って少ししてから、ダンスホールレゲエがヤバいということに気付いて。80年代のダンスホールレゲエのジャケってすごくかわいいんだけど、反面ちょっと不良っぽいというか。その感じにめちゃくちゃ惹かれて。ダンスホールレゲエのジャケットで有名なウィルフレッド・リモニアスっていう画家がいるんですけど、彼の作風には直接的に大きな影響を受けていると思います。ジャマイカ盤はジャケの紙質とか印刷の粗さとかも含めて大好きです。

ヨーッラック・サラックジャイ「I Don't Have A Boyfriend」

タイの大衆歌謡であるルークトゥンのレコードです。サウンドはもちろん、ジャケの色彩とかロゴのデザインとかすべてが僕好み。見るだけでやる気が出ます。モノ作りをするうえでの超イメージソースになっていますね。20代の頃に頻繁にアジアを旅してる時期があって、当時はアジアの音楽のカセットテープとかを大量に買ってました。アジアのレコードってジャケの匂いもヤバいんですよ。インクの匂いと埃臭さでインスピレーションを掻き立てられます(笑)。

レコードは触れることが大事

ー SL-1200MK7の触り心地はいかがでしたか?

NONCHELEEE 操作性がしっとりしてる。シルキーだよね。改めて安心感あるなって感じました。

KYNE カシャカシャしていなくて、ズッシリしてる。ボタンの操作感もいい。

NONCHELEEE うん。押し心地のよさは超大事。こういうディテールがプレイにも影響してくると思うんです。

ー レコードで音楽を聴くことの魅力を教えてください。

NONCHELEEE 僕はもともとバンドをやっていたせいか、音楽を聴くとき、どこかにプレイヤーとしての自我というか、雑念みたいなものが残っていて、聴くことへの純度が高くなかったんです。それこそ宅録イズムなのか、自分で音を劣化させてオリジナルの音源を好みのテクスチャーに変えちゃったりとか。もちろんそういう楽しみ方もいいと思うんです。でも1、2年前にDesiderataのスタッフの増尾さんが手がけた、今、今泉にあるSiroccoのサウンドシステムでレコードを聴かせてもらう機会があって、そこで打ちのめされちゃったんですよね。「音楽を聴くってこういうことか!」と。

ー その感覚、具体的に教えてもらえますか?

NONCHELEEE プレイヤーがレコーディングしたものをピュアに聴けているというか。音が脳にトランスポートされてる感覚っていうのかな。それが自分にとって、ものすごくピュアなリスニング体験だったんです。それこそ自分もプレイヤーとしての経験があるから、作り手がレコーディングしたものにどんな思いを込めているのか、僭越ながら少しはわかるようになって。だからこそ音楽を聴くことに自我は必要ないと思うようになりました。ありのままを聴くというか。そこから聴くことに対して謙虚になりました。

ー なるほど。

NONCHELEEE ようやく純粋なリスナーになれたというか。その意味でもレコードってやっぱり作り手の思いに、より近付けるツールだと思うんです。あと、音のクオリティもそうだし、レコードってジャケットを手に取って触れるじゃないですか。それがめちゃくちゃ大事なんです。例えばタイのレコードに染み込んだ香りとかも含めて五感で音楽を楽しめる。そういうツールだと思いますね。

KYNE わかる。触れるって大事。僕が7inchを買い始めたのも触ることがきっかけなんです。僕は80年代アイドルの写真集をコレクションしていて、中にはもう市場に全然出回ってなかったり、神保町とか専門店に行けばあるだろうけど、超プレミアがついてて気軽に買えないものも多いんですよ。レコードってたまにブックレットが付いてるものがあって。そこで写真とか当時のデザインが見られるんです。それが本当に楽しかった。しかも数百円(笑)。もちろんサブスクを否定してるわけじゃないんです。めっちゃ便利だからよく使うし。ただノンチェくんも言ってたけど、レコードを手に取って聴くとさらに作品の世界観に浸れるんですよ。あとモノを集める楽しさもありますよね。

PROFILE / KYNE(キネ)
福岡を拠点とするアーティスト。大学時代に日本画を学び、並行して2006年頃から活動を開始する。2010年頃にクールな表情の女性を描く現在のスタイルを確立。1980年代の大衆文化を独自に解釈し生まれた絵画は、国内外で注目されている。
PROFILE / NONCHELEEE(ノンチェリー)
福岡を拠点とするアーティスト。2015年頃に間抜けな表情の人物を描く現在のスタイルを、2018年頃に素朴な表情の建物を描くスタイルを確立させる。1980年代の大衆文化を独自に解釈し生まれた絵画が、国内外で注目されている。
SL-1200MK7

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