「カクバリズムのレコ話」第3回 角張渉×髙城晶平(cero)
レコーディング時の感覚を再現する「SL-1200MK7」の底力
世界中のDJがプレイする現場で使われ続けるTechnicsのターンテーブル「SL-1200MK」シリーズに、最新モデル「SL-1200MK7」が登場しました。新開発されたダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシ、アップデートされたモーターのトルク制御など新たな特徴もある一方で、トーンアームや操作スイッチなどの配置は従来のモデルのレイアウトと操作感が踏襲され、“継承と進化”が感じられるモデルになっています。
この連載企画では無類のレコード好きとして知られるカクバリズム社長の角張渉さんをホストに迎え、所属アーティストとの対談を通して「SL-1200MK7」の魅力やレコードで音楽を聴く楽しみを紹介しています。最終回となる今回のゲストは、今春にShohei Takagi Parallela Botanica名義でも本格始動したceroの髙城晶平さん。これまでceroとして数々のアナログ盤をリリースし、ソロアルバム「Triptych」のアナログ化も決定している彼に、レコードで音楽を聴く醍醐味を聞きました。
角張渉 髙城くんはceroで数々のアナログ盤を出しています。今年の4月にはソロアルバムをリリースして、現在アナログ化の作業も進めているんですよね。そもそも髙城くんのレコードとの出会いはいつぐらいなんですか?
髙城晶平 両親がレコードを聴く人間だったので、物心ついたときには家にレコードがあったんですよ。とはいえ日常的に親がターンテーブルでレコードを聴いていたかというと、そういう印象はなくて。ほら、子供ってガチャガチャいじっちゃったりするから。だから、僕が高校生くらいになった頃から、ちょっとずつターンテーブルが稼働し始めた感じだったのかなって今にして思いますけどね。
角張 髙城くんの家には、いわゆるスワンプロックやシンガーソングライターものとか、はっぴいえんどのレコードがあったんだよね。それがちょっとしたコンプレックスだったみたいだけど。
髙城 いわゆる名盤みたいなものが出そろっている恵まれた状態でスタートすると、「じゃあ、俺は何を集めればいいんだ?」みたいな感じになったりして。むしろそういう状況にないハングリーな人に比べると出足は遅かったかなと今にして思いますね。
角張 ちなみに今はどんなときにレコードを聴いてますか?
髙城 レコードって一番心に余裕が必要なメディアだと思うんです。例えばストリーミングとかを利用すれば、Bluetoothを使ったりして洗濯物を干している最中にも気軽に音楽を聴くことができるけど、レコードはなかなかそうはいかないというか。僕には子供が2人いるから保育園に連れて行ってから家で作業をするわけですけど、レコードはそういう合間に聴くことが一番多いかな。
角張 子供がいたりすると、なかなかね。20代の頃は1枚のレコードをじっくり聴いたりするような時間もあって、まあ、ぜいたくではあったよね。ただ時間が限られているからこそ、音楽がよりよく聞こえたりすることもある。
髙城 レコードをじっくり聴けているということは今、自分に余裕があるんだなっていう。それをレコード側に教えられる。逆に音楽が頭に入ってこないのは今、自分に余裕がないんだなと。
角張 あー、なるほどね。さて、本日は髙城くんに何枚かレコードを持ってきてもらいました。
髙城 まず1枚目は最近買ったレコードで、石橋英子さんの「百鬼夜行」です。
角張 おー! 聴いてみたかったレコードだ。
髙城 7月に出たばかりで、ジャケもカッコよくて。一休宗純の短歌をモチーフにしたコンセプチュアルな作品です。A面1曲、B面1曲という構成で、電子音と生楽器が混じった即興的な楽曲が収録されています。1枚で完結するポップアートのような感じというか。こういう作品が今一番しっくりくる。最近、音楽とか芸術に対する退屈耐性についてよく考えるんです。僕はYouTubeというメディアをあまり楽しめなくて。YouTubeを好きな人って、ザッピングしながらいろいろ観てると思うんだけど、僕はそういう楽しみ方ができないんですよ。YouTubeの画面にバーがあるじゃないですか。
角張 あの収録時間を表示してあるやつ?
髙城 そう。あと何分で終わるみたいな。あの表示のせいなのか、ミュージックビデオであれ映像であれ、落ち着いて楽しめなくて。途中でつらくなって「何が起こるんだろう」って早送りしちゃう。これって自分の退屈耐性と関係があるんだろうなって。このレコードに収録されてるような長尺の曲を僕はYouTubeで最後まで聴けないと思うんです。でも、アナログという媒体では最後まで聴き通せる。そういうことってあるなと思って。
角張 うん、あるね。
髙城 でも考えたら当たり前のことで、ゴダールの難解な映画をパソコンで観ようとしたら疲れると思うんです。映画館で観ることで退屈を楽しむことができる。同じように、こういう種類の音楽って聴くまでのプロセスが大事なんじゃないかなと思って。その意味でもターンテーブルで聴くのが適しているんじゃないかと。
角張 次のレコードは?
髙城 アラン・トゥーサンの「Southern Night」です。「Southern Nights」という名曲が入ってるんだけど、大学生のとき、吉祥寺の居酒屋・美舟で初めて聴いて。「ラジオ深夜便」でかかってたんだけど、すごくいい曲だな、エキゾな曲だなと思ってCDを買ったんです。最終的にはアナログに落ち着いたけど、僕の中で視聴の流れがあったんですよね。ラジオで初めて聴いてからCD、レコードと異なるメディアを通して聴くことで、だんだん理解が深まっていった。どれもいい経験だったけど、最終的にたどり着いたのがアナログだったんだなと思います。
角張 そしてもう1枚は?
髙城 The Stills-Young Bandの「Long May You Run」。スティーヴン・スティルスとニール・ヤングのバンドですね。このアルバムに入ってる「Midnight on the Bay」という曲は、バレアリックでちょっとスピリチュアルな感じもあったりして。「Southern Nights」もそうなんですが、アナログで聴くと立体感が出るサウンドだなと思って。
角張 今はアナログブームだと言われていますが、アナログ盤に合う音楽や、そうした音楽の作り方といったプロセスを伝えないまま「アナログで音楽を聴きましょう」みたいな、ちょっと説明不足な部分はあるよね。
髙城 逆に言えば音楽には階層があって、スピード感で聴くべき音楽もあるわけで。そういう音楽はストリーミングで聴くのが最適だと思うんです。映像の世界で言えば映画館なのか、テレビなのか、Netflixなのかみたいな、そういうことをある程度考えるのは大事なんでしょうね。音楽家は今、自分が作る音楽がどのメディアに適しているのかを考えなきゃいけない時代なのかもしれない。
角張 そう言えば、前回の連載で澤部(渡 / スカート)くんがMK7が新品で出ていることが意外に重要だと言っていて。中古でもターンテーブルは買えるけど、現行品があるというのは安心感がある。
髙城 確かに。
角張 では持ってきてもらったレコードだけじゃなく、せっかくなので髙城くんのソロ7inchアナログ「ミッドナイト・ランデヴー / PLEOCENE」を聴いてみましょう。
(試聴を終えて)
角張 髙城くんと僕が持ってきたアナログをMK7で聴いてみましたけど、どれも聴感的になんのストレスもなく安心して聴けました。
髙城 やっぱり安心感がありますね、Technicsのターンテーブルって。
角張 ハイが出やすいとかは針の関係もありますけど、何よりも音質的にしっかりとした土台がある。このターンテーブルでレコードを聴いていたらまずは問題ないという。石橋さんの作品は徐々に世界が広がっていくような感じでよかったですね。でも、僕には髙城くんのソロ7inchアナログ「ミッドナイト・ランデヴー / PLEOCENE」が一番よく聞こえました。
髙城 僕もそうです(笑)。レコーディングスタジオで「録れました。聴いてみましょう」っていう、あのときの現場の雰囲気を思い出しました。バスドラの感じとか。それはもしかしたら機材のおかげなのかもしれない。録音した直後の感じをありありと思い出しました。
角張 確かにそうだね。カーステレオで聴いてるのとはワケが違う。
髙城 すごく再現性が高かった。
角張 それは作り手しかわからないことですよね。
髙城 そうですよね。録音した楽曲を初めて聴いたときに近い体験だった気がする。
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\#カクバリズムのレコ話 最終回🎙/
— Panasonic Japan公式 (@Panasonic_cp) 2020年9月29日
数々のアナログ盤をリリースし、
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- 2020年10月20日(火)
- PROFILE / 角張渉
- 音楽レーベル・カクバリズム代表。1978年、宮城県出身。2002年3月にカクバリズムを設立し、YOUR SONG IS GOOD、SAKEROCK、キセル、二階堂和美、MU-STARS、cero、(((さらうんど)))、VIDEOTAPEMUSIC、片想い、スカート、思い出野郎Aチーム、在日ファンク、mei eharaなど多彩なアーティストの作品を次々と世に送り出す。2018年7月に初の著書「衣・食・住・音 音楽仕事を続けて生きるには」を発表した。
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カクバリズム | KAKUBARHYTHM
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- PROFILE / 髙城晶平
- 1985年生まれ、東京都出身。2004年に荒内佑、橋本翼と共にceroを結成する。2007年にその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベル・commmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」に参加。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表し、その後もコンスタントにリリースを重ねる。2019年1月にソロプロジェクト・Shohei Takagi Parallela Botanica名義で初ライブを開催。2020年4月にアルバム「Triptych」をリリースした。
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cero official web site
髙城晶平 (@takagikun) | Twitter