TENDRE×yasu2000 スタジオで語る“曲に込めた想い” Technics「EAH-AZ100」が届ける“ありのまま”の音とは

ブラックミュージックを基調とする都会的かつメロウなサウンドで、音楽シーンに独特の存在感を放つマルチプレイヤー・TENDREと、そんな彼の音源制作にデビュー当時から長年にわたって携わるレコーディングエンジニア・yasu2000。その両者が講師を務める東放学園⾳響専⾨学校の学生を対象としたワークショップ&リスニングイベント「Listen to the Emotion by Technics」が、yasu2000のホームグラウンドである東京・big turtle STUDIOSで行われた。

ワークショップでは、テクニクスの完全ワイヤレスイヤホン「EAH-AZ100」を使用してTENDREの楽曲を全員で試聴するひと幕も。「ミュージシャンの細やかなこだわりを余さず伝える」という理念のもとに開発された本機の試聴体験は、実際に楽曲を制作したTENDREとyasu2000、そして彼らの想いを聞いた学生たちにどんな印象を与えたのか。率直な感想を語ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ 撮影 / 須田卓馬

1個1個の音に込められた意図

ワークショップは、TENDREの普段の制作環境についての話題でスタート。10畳ほどの作業スペースにPCやアップライトピアノ、実機のウーリッツァー(エレクトリックピアノ)などを設置し、配線を常時接続した状態の“思い立った瞬間にすぐ録音ができる環境”を心がけているのだそう。

またTENDREはリスナーの視聴環境について、「この作品はレコード以外で聴かないでください」などという限定はしないようにしていると主張。ステレオシステムやCDコンポが主流だったかつての時代とは異なり、スマートフォンやイヤホンが現代の主流となっているように、10年後や20年後はさらに様変わりしている可能性が十分に考えられる。であれば、環境に左右されて価値が損なわれるような音楽を作るべきではないというのが彼の考え方だ。そのうえで自身の好きな音の傾向や時代の求める音像を知ることは大事だといい、いろいろな環境を試し、いろいろな音楽に触れようとする姿勢を推奨した。

自身の楽曲制作のスタイルについて説明するTENDRE。

楽曲制作における具体的な作業の進め方に話題が及ぶと、TENDREはyasu2000をはじめとしたエンジニアとの会話の中で齟齬を生まないためにリファレンス楽曲を活用していると明かす。“太い音”“硬い音”などの言葉からイメージするものは人によって千差万別であるため、共通言語を構築するには既存の楽曲を参照するのが最も合理的だからだ。「音楽はすべて対話で始まっていく。結局、音楽って“人間”でしかないんですよ」とはTENDREの弁だ。

そうしたコミュニケーションを経て生まれる音の具体例として、TENDREが教材としてピックアップしたのは、2018年に発表した1stアルバム「NOT IN ALMIGHTY」収録曲の「DOCUMENT」。言うまでもなく、yasu2000がエンジニアリングを手がけた作品だ。「頃合いのいい頃に」というフレーズに象徴されるように、「何気ない日常の機微」がテーマとなっている本楽曲は、まさに何気なく気の向くままに音を録りながら、1から10までスタジオ内のみで制作されたのだという。

完成版ミックスのみならず、楽器別のパラデータを単独あるいは複数で鳴らしながら、楽曲に込めた想いや細かなエフェクト処理の狙いなどを惜しみなく開示していくTENDREとyasu2000。映像をイメージしながら曲を作ることが多いというTENDREは「自分が主人公としてこのメロディの真ん中にいるとしたら、ロケーションは青空の下かな?って想像したりして」と「DOCUMENT」の制作時を述懐し、「シンセサイザーの“ポッポッ”という音は、ふと通り過ぎた車がカッコよかったときのような、そういう“さりげなさ”を要素として入れた」「ベースは“主人公の友達”みたいなイメージ」など、1個1個の音に込めた意図を語った。TENDREが思い描いたイメージとそれを音で実現させるyasu2000のこだわりに触れ、学生たちは目を輝かせながら興味深そうにPro Toolsの画面に見入った。

AZ100で自分の曲を聴くとうれしい気持ちになる

そんなクリエイター目線の解説を踏まえ、ここで改めて「DOCUMENT」をフルサイズで試聴する流れに。前述の通り、リスニングには「EAH-AZ100」(以下、AZ100)を使用。1つの音源を低遅延かつ高音質でシェアできるBluetooth®の次世代ブロードキャスト規格・Auracast™を用い、全員の装着するAZ100に同一音源が同時ワイヤレス送信された。ちなみにこの技術は公共施設のアナウンスや映画館、劇場などでも活用されており、今後さらなる普及が見込まれている。

yasu2000はAZ100について「磁性流体が使われているだけあって、低域のメリハリが素晴らしい。僕がこだわったキックとベースの分離感がよく再現されています」と所感を述べ、TENDREも「ミュージシャンが本来届けたい音に忠実で、ふくよかな印象です。フラットすぎず、曲のよさを引き出してくれる。これで自分の曲を聴くとうれしい気持ちになりますね」と好感触を示した。

Auracastを用いた「EAH-AZ100」の試聴体験の模様。

そしてワークショップの最後には質疑応答の時間が設けられ、多岐にわたるトピックが活発に応酬。短時間ながら極めて濃密な内容となったワークショップは、以上をもってつつがなく終了した。

ワークショップ参加者の感想

ワークショップを終えた学生たちは、一様に「勉強になった」と充実感をにじませる。リスニングに用いられたAZ100にも、多くの学生が好印象を持ったようだ。大多数が、すべての帯域における明瞭さと表現力の高さ、キックとベースの分離のよさなどについて言及。普段使っているイヤホン / ヘッドホンとの差異に触れる学生も多く、ノイズキャンセリングに苦手意識があったというある学生は「AZ100はノイズキャンセルをかけたままでも耳や頭に圧迫感が少なく、うれしかった」と表情をほころばせ、またある学生は「“音楽”を楽しめるイヤホンだなと感じました」とストレートに評する。中には「分離がよく定位もわかりやすい。リアルな音なので制作にも使えそうな感じだなと思いました」と、“いい音”が何かを自身の視点で語る学生の姿も見られた。

Auracastを用いて「EAH-AZ100」で「DOCUMENT」を試聴する参加者。

また、学生たちの感想は「アーティストの意図した音を忠実に再現するイヤホンである」という見解で一致。「すごく“青空感”を感じました」「パンニング(音の定位を左右に移動させること)の意図なども聞いたうえで試聴をしたので、『あ、このことを言ってたんだな』と気付けた」「イヤホンを装着した瞬間に、TENDREさんの描いた世界にバッと入り込みました」「シンセサイザーやエレクトリックピアノの位相感(音の広がりや奥行き、位置関係)やフェイザー(音にうねりを加えるエフェクト)の効果などを、このイヤホンはよく出してくれる。それでいてボーカルが聴きやすい」など、AZ100を通して楽曲を聴くことで、TENDREとyasu2000が制作において意識した点を感じ取ることができたという意見が多数聞かれた。

制作する音にはすべて意味がある

ー つい先ほどワークショップを終えられましたが、率直にいかがでしたか?

TENDRE 「DOCUMENT」はこのbig turtle STUDIOSで作った曲の中でもかなり初期の曲ではあったので、それをyasuさんと一緒に聴き返すのがすごく新鮮で、懐かしい気持ちになりました。作った当時の気持ちや今の感覚を学生の皆さんと共有できたのもよかったですし、何か新しいものにつながっていったらいいなという喜びを感じながら、ワークショップを楽しんでおりました。

yasu2000 最初は学生さんたちに何が伝えられるかなと思ってたんですけども、音作りにおける「なぜそうするのか」みたいな部分を、今回を機に探求してもらえたらなという思いがありました。いい言葉が言えたかどうかはちょっとわからないですけど(笑)、制作する音にはすべて意味があるということは伝えられたと思うので、そこはよかったかなと。

ー ワークショップの最後には、「EAH-AZ100」を通して学生さんたちに「“曲に込めた想いが伝わる”とはどういうことか」を体験してもらいました。お二人から見て、AZ100はどんなイヤホンですか?

TENDRE イヤホンなどの機材選びって、結局はいろんな製品の中から「自分が何を好むか」という自分自身の傾向を探ることだと思うんです。なので聴く音楽によってもその基準は全然違ってくると思うんですけど、AZ100に関しては、ローは感じつつも大きな脚色は感じなかったのですごくフラットに使えるイヤホンだという印象がありました。自分好みの音楽を探るのにすごく向いているなと。テクニクスさんがおっしゃっている「作り手の想いやこだわりをありのまま届ける」というメッセージは、そう思ってくれること自体がすごくうれしいですし。

ー 「アーティストの想いを伝えようとしてくれているな」と、どういう部分で感じますか?

TENDRE 単純に言ってしまえば、音像の捉え方というんですかね。レンジ感であったり、音の分離感であったり……自分が聴こえてほしい楽器の音が、そのポイントでちゃんといい具合に鳴ってくれる。AZ100はそこの分離感がすごく心地よく、違和感なく聴けたのがすごくよかったです。

yasu2000 僕はまず「ローがわりと強調されてるイヤホンだな」という印象があったんですけども、そのローの分離がよい。キックとベースの分離感がわかりやすいところを僕はすごく高く評価しています。それと同時に高域の解像度もすごくあるので、例えばボーカルと楽器で異なるリバーブをかけた場合の違いなどがわかりやすいなと感じました。

ー ベースが気持ちよく鳴ってくれるというのは僕も感じました。普通は低域を強調すると飽和しちゃって、近くの音が聴こえづらくなりがちだと思うんですけど、これはすごくスッキリしてますよね。

TENDRE 確かにそうですね。やっぱり時代によって「何を強調するか」というトレンドは変わってくる気もするので、その中でこうやって音像全体を捉えやすく届けてくれる製品があるのは、作り手としてもすごくありがたく思います。自分もあまり何かを変に強調することなく、フラットな気持ちで曲を作ろうと思わせてくれますね。

左からTENDRE、yasu2000。

「ふと何気なく使いたくなる」もの

ー 仕事以外で音楽を聴く際に、リスニング環境に求めるものはどういうものですか?

yasu2000 僕は仕事柄、四六時中エンジニア仕事に最適化されたヘッドホンやスピーカーでいろいろ聴き比べをしているので、それを私生活に持ち込みたくないなという思いがあって(笑)。家では生活に密着した音楽の聴き方をしたいなと思っています。

TENDRE やはり音楽を作っている身として、常に音を分析してしまう脳みそになっているんですよ。ただ、1日中その脳みそでい続けると疲弊してしまうことも当然あって。もともと音楽を聴くのが好きだからこそ音楽を始めているので、できるだけフラットな気持ちで音楽を楽しみたいときには、yasuさんが言ったような“生活に溶け込んでいる”距離感がすごく大事だなと思います。

ー ある種の“気軽さ”が必要ということでしょうか。

TENDRE 気軽さもそうですけど、「ふと何気なく使いたくなる」ということがすごく重要だと思っていて。「音楽を作らないぞ」というモードのときに、ふと手が伸びるものだとありがたいのかな。

yasu2000 AZ100はうちのスタジオで使っているスピーカーやモニターとまたひと味違う特徴の製品なので、仕事と分割するというか、違った感覚で音楽を楽しむのに向いている印象がありますね。ワイヤレスでフィット感もいいし、普段音楽を聴くうえですごく使いやすい。

TENDRE ワイヤレスイヤホンは今一番ポピュラーなリスニング環境だと思うので、聴き手の感覚を養うという意味で使うことも多いです。もともとワイヤレスイヤホンで音楽を聴くのが好きというのもありますが。

左からTENDRE、yasu2000。

“AZ100にしか出せない音”がある

ー 先ほどのワークショップでもかなり細かいこだわりを話されていましたが、改めて「DOCUMENT」のサウンドに込めた想いを聞かせてください。

TENDRE これは今思えばの話なんですが、料理の例で言うなら「塩だけでイケるな」みたいな曲なんですよね。当時は自分なりのフルコースを作っていたつもりではあったんですけど、時代や考え方が変わってきた今聴くと、数種類の野菜に塩を振っただけでプレート上の物語ができあがっている。それによってメロディというメインディッシュが一番引き立つ形になっている、みたいな。TENDREを始めた初期の曲って、そういうものが多かったんですよね。

yasu2000 なるほど。音数が少なくて、メッセージもシンプルでっていう。やっぱりいいものほどシンプルに戻っていくのかな。

ー それは“ごまかしの利かないもの”になっていくということでもありますよね。

yasu2000 そうですね。エンジニアも、“何もしない”が最良である場合はそれを選択できなければいけない仕事ではあるんです。人は技術を習得すると使いたくなるものなので、「何かを施してやろう」という気持ちが普通は出てくるんですけど、それを抑えなければいけないケースがある。それにちょっと似た話のような気がしますね。

TENDRE エンジニアこそミュージシャンなんじゃないかな、とめちゃくちゃ思いますね。イメージを音に翻訳するのがミュージシャンの仕事だとするならば、音源に関して言えばすべてを握っているのはエンジニアだと思うので。

ー そんなごまかしの利かない音を誤解なく届けるうえで、AZ100はどんな働きをしてくれるイヤホンですか?

yasu2000 AZ100は、実はイヤホンの中でも特徴的なほうだと僕は思うんですよ。楽器でも「この楽器にしか出ない音がある」という強烈な個性を放つものがあったりするんですけど、AZ100にも“AZ100にしか出せない音”があるなと思うので、そのスタイル自体を僕はすごくリスペクトしています。

TENDRE そうですね。僕は自分の好みというのは、それぞれのキャラクターがある製品の中で1個を使い込むことによって形成されていくものだと思うので、AZ100を使うことが「自分が本当に好きな音楽、音像はなんなのか」の探求につながるといいのかな、と思いました。

左からTENDRE、yasu2000。

※音楽ナタリー掲載記事より抜粋

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PROFILE / TENDRE(テンダー)
ベース、ギター、鍵盤、サックスなどを演奏するマルチプレイヤー・河原太朗のソロプロジェクト。2017年12月にTENDRE名義でのデビューEP「Red Focus」を、2018年10月には1stアルバム「NOT IN ALMIGHTY」をリリースした。2021年4月にシングル「PIECE」にてEMI Recordsよりメジャーデビューを果たし、同年9月にメジャー1stアルバム「IMAGINE」をリリース。2025年10月にはアルバム「TENDRE」を発表し、リリースを記念したライブツアー「ONE-MAN TOUR 2025 "GRATEFUL DAYS"」を全国5都市で行った。
PROFILE / yasu2000(ヤスニセン)
1999年、DJとして単身でアメリカ・ニューヨークへ渡る。現地でサウンドエンジニアに興味を持ち、Institute of Audio Research(I.A.R.)で学ぶ。卒業後はブルックリンのブッシュウィックスタジオに2年間在籍し、ニック・ハードのアシスタントも務める。2005年に帰国後、origami PRODUCTIONSのハウスエンジニアとして活動。これまでに、あいみょん、Original Love、TENDRE、U-zhaan、WONK、YONA YONA WEEKENDERS、luvなど、ジャンルや世代を問わず幅広いアーティストの作品制作に携わっている。
AZ100

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