RM jazz legacy 守家巧さん・大塚広子さん 「やっぱり、いい音で聴かないとダメですね(笑)」

PROFILE
精鋭ジャズ・ミュージシャンによる日本発のグルーヴィー・サウンドを創出するユニット、RM jazz legacy。2014年アルバム発売前にも関わらずBBC Radio 2のテーマ曲に抜擢され2015年フジロック・フェスティバルに出演。ロックの会場を圧倒させた。2015年末、ファーストアルバム「RM jazz legacy」発売。2016年BLUE NOTE JAZZ FESTIVAL in JAPANに出演。2016年末セカンドアルバム「2」発売。日本トップクオリティの技量を新鮮なリズム、アレンジで提供する即興性の高いステージングと、過去の上質なジャズの遺産に習った妥協なきサウンド(アナログテープ録音によるLP、7インチ発売など)で話題を呼んでいる。
RM jazz legacy OFFICIAL WEBSITE

テクニクスでは、ダイレクトドライブターンテーブルシステム「SL-1200G」の購入者にオリジナルレコードをプレゼントするキャンペーンを実施しました(応募終了済)。今回のキャンペーンでプレゼントされるオリジナルレコードには、新たなジャズの波を感じさせる4組の日本人アーティストの楽曲が収録されています。

RM jazz legacyは、DJの大塚広子プロデュースにより、日本のトッププレイヤーが集結したジャズユニット。RUMBA ON THE CORNERなどで活躍し、昨年にはソロアルバム『エスポワール』も発表したベーシスト・守家巧を中心に、世代も界隈も様々な面々がグル―ヴィーなサウンドを作り出しています。今回はその大塚広子、守家巧のお二人に、結成からの歩みや提供曲の「Reborn」について話していただきました。

― 今回のキャンペーンはレコードプレイヤーを買うと応募者全員にレコードをプレゼントするというものなのですが、企画を聞いてどのような印象を持たれましたか?

大塚 以前からこういうことができるといいなっていうのはずっと思ってたんです。アナログレコードに興味のある層がどんどん幅広くなって、下の世代も増えてきた中で、ジャズが堅苦しい音楽だと思っている人がもしいたら、今回のレコードで今のジャズの楽しさを知ってほしいと思います。もともとレコード大好きな私たちなので、ホントに願ってもない機会ですね。

守家 よくぞ俺たちを呼んでくださいました(笑)。

― レコードに収録されている「Reborn」はRM jazz legacyにとってどんな曲ですか?

守家 一般的なジャズっていうのは、テーマがあって、インプロヴィゼーションがあって、またテーマに帰ってくるっていう一連の流れがあるわけですけど、この曲はテーマに沿ってずっとグルーヴしていく曲で、それってもともとマイルス・デイヴィスが1964年くらいにやってることなんです。ジャズミュージシャンの中にこのことの重要性に気づいてる人はそこまで多くない気がするんですけど、僕らからしたら「全然別のとこ行ったな」っていう感覚なんですよね。今回お話をいただいて、あまり長い曲じゃない方がいいと思ったので、「絶対この曲やな」って思いました。

RM jazz legacy 守家巧さん

― では、実際にTechnicsのオーディオシステムで聴いていただきましょう(「Reborn」を試聴)。

守家 すごくクリアですね。レコーディングスタジオで聴いているときの感動が甦って、血流がブワッてなります(笑)。

大塚 楽器それぞれの音がバッチリ聴けるので、楽器同士の会話がよくわかりますね。この曲は2管の会話がある曲なので、それが細かく聴けるのがいいなって。プレイヤーの個性はもちろん、人柄までわかるような気がして、すごく楽しいです。

守家 この曲はトランペット、テナーサックス、ピアノ、ベース、ドラムで構成されてるんですけど、上下のサイズや奥行きを意識して音を配置していて、それがくっきりと明瞭に伝わるというか、イメージ通りに再生されてますね。

― 今回はお二方には思い入れのあるアナログレコードをお持ちいただいていますので、それぞれ作品を紹介していただけますか?

大塚 じゃあ、まずは最もジャズらしいレコードで、ハービー・ハンコックの『Inventions & Dimensions』。RM jazz legacyをやる前に、坪口昌恭さんと自分の企画するイベントをアルフィーでやっていて、ジャズミュージシャンの方とセッションをする機会を初めて作らせてもらったんですけど、もともと私そういうことはあんまりしたくなくて(笑)。自分は演奏家ではないので、DJはDJって思ってたんですけど、坪口さんにはいろいろ話を聞いていただいて、2人の共通点が「Succotash」という曲だったんです。この曲ではポリリズムが使われているんですけど、ポリリズムといえば坪口さんですし、私も自分のDJでは全然違う拍のものを混ぜて、どこかで一致する瞬間に燃えるタイプで。なので、この曲はいろんな意味できっかけになった曲なんですよね。

― 続いて、国安良夫4の『THERMAL』に関してはいかがですか?

大塚 「Reborn」でドラムを叩いてくださった藤井(信雄)さんが参加しているバンドで、和JAZZのブームのときにすごく取り上げられた作品です。ファラオ・サンダースのスピリチュアルジャズが流行る前に、こういう雰囲気のあるものを日本人がやっていたっていうのがかっこいいし、そこでやっていたドラムの方と一緒に曲を作れたっていうのは、一ファンとしてすごく嬉しかったです。

― 最後に、ジョー・マクフィーの『Nation Time』。

大塚 これはレアグルーヴのレコード好きな人の中ではレア盤とされているんですけど、思わぬ金額で見つけることができて、運命的に出会った盤なんです。特に「Shakey Jake」が大好きで、最初の頃に守家さんと話をする中で、「これをバンドでカバーしてくれませんか?」ってお願いして、RM jazz legacyを始めるきっかけになった『PIECE THE NEXT』というコンピレーションで実際カバーをしてもらったんです。それまでの自分は、昔録った音源っていうのはそのときにしか存在しないわけで、それをカバーしてもダメなんじゃないかと思ってたんですけど、そういう気持ちを捨てさせてくれるようなカバーだったというか、昔と今をつなげてくれる曲になりました。

RM jazz legacy 大塚広子さん

― では、続いて守家さんのセレクトで、まずはスカタライツの『Return Of The Big Guns』。

守家 大塚さんがジャズを持ってくると思ったので、僕はスカとかレゲエにしたんですけど、これはスカタライツが1983年に再結成したときのスタジオ盤です。僕は20代半ばのときにデタミネーションズっていうオーセンティックスカのバンドに入ったんですけど、最初に60年代のスカのテープやレコードを聴かせてもらったんですね。ただ、当時のジャマイカのレコードって、アメリカと比べると20年くらい録音技術が遅れてて、40年代のアメリカのジャズバンドを聴いてるような感じで。だから、ベースの音程が全然わからなくて、練習のときも「違うなあ」みたいに言われて、「これはどうしたものか?」ってなってたときに、テナーサックスの人がこっそりこのカセットを渡してくれて、80年代の録音なので、ベースが明瞭に聴こえて、やっといい感じで演奏できるようになったんです。アナログはなかなか見つからなかったんですけど、やっと手に入れることができて、すごく思い出深い一枚ですね。

― もう一枚はコンピレーションで、『Impact ! (Reggae, Funk & Soul From Impact)』。

守家 これは2003年くらいに出たコンピレーションで、ジャズソウルとかレアグルーヴの要素を含んだレゲエがテーマになっていて。いわゆるレゲエはレイドバックしてて、好きな人にしか踊れないって部分があって、それが面白いと言えば面白いわけですけど、このコンピの曲はファンクやソウルの要素が入ってるので誰でも踊りやすいし、全曲捨て曲なしのすごいコンピレーションですね。

― では、こちらも試聴してみましょうか(ジョー・マクフィー「Shakey Jake」、スカタライツ「After The Rain」を試聴)。

大塚 (「Shakey Jake」を聴きながら)これ掛け合い誰がやってるんだっけ?

守家 クレジットが入ってる主要メンバー以外の人じゃない?パーカッションもクレジットは2人になってるけど、2つ以上鳴ってるし、いっぱいおるんちゃう?

大塚 やっぱり、いい音で聴かないとダメですね(笑)。私たちはいわゆる正統派のジャズ盤としては評価されていない、プライベート盤みたいなのを探してクラブでかけるわけですけど、クラブでは音が塊になって出るので、楽器の分離はあんまりわからないんですよね。でも、こういう環境で聴くと、メンバーがこっちとこっちにいて、その裏でこういう楽器が鳴ってるっていうところまで見えてくる。昔ジャズ喫茶に行ったときも、「こんな音が入ってたんだ」っていうのを体験して、すごい衝撃だったんですけど、その頃を思い出しました(笑)。いい音で聴くと楽しみが何倍も増えるなって、改めて実感しましたね。

RM jazz legacy 守家巧さん・大塚広子さん

― では、ここからはRM jazz legacy自体についてお伺いしたいと思います。そもそも、どのような経緯で始まったユニットなのでしょうか?

大塚 先ほども話に出ましたが、2014年の年末に私の監修で今のジャズシーンを取り上げる『PIECE THE NEXT』というコンピレーションを作らせてもらって、その中に「Night Flight」という曲を収録したのが始まりです。守家さんとはその前の年にRumba On The Cornerの東京でのライブにDJで参加させてもらったときに知り合って、ルンバにはジャズミュージシャンもいっぱい参加してるけど、耳触りは完全にジャズじゃなくて、もっと広がりのある音楽で、こういう音楽をいろいろ紹介したいと思ったんです。それでコンピレーションのお話を守家さんとしているうちに、この方とならもっとクリエイティヴなことができるんじゃないかと思って、ミュージシャンを集めて一曲録ったのが「Night Flight」だったんです。

守家 まあ、中心にはジャズっていうのがあるんですけど、僕はジャズの影響も受けつつ、もともとレゲエとかスカのシーンで活動していて、一方で彼女はDJとしてジャズにアプローチしていて、そういう2人ならではの、今までにないものをやってみようっていうモチベーションの部分が合致したんですよね。

― 大塚さんが「今のジャズシーンを紹介したい」と思うようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

大塚 これってきっかけがあったというよりは、徐々にっていう方が近くて、もともと和JAZZのブームで60年代から70年代の日本のジャズにハマったときがあって、そこからジャズミュージシャンのかっこよさをこの目で見て、共演したいっていう気持ちが出てきて、ジャズのライブでDJをすることが段々と自然になっていったんです。ただ、自分の中ではクラブシーンとジャズのライブを楽しむシーンって、すごく分かれてる印象があったので、両方を知ってもらうきっかけが作れないかと思っていて。で、いろんなジャズのライブを観る中で、ミュージシャンとのつながりもできてきて、昔のレコードも今の音源も同じようにかけて楽しめる雰囲気を作りたいと思い、それがコンピレーションを作る動機になりました。ロバート・グラスパー・エクスペリメントが出てきて、今のジャズは面白いっていう雰囲気になってきていたので、それも背中を押してくれましたね。

守家 ジャズっていうのを切り取って語ることもできるけど、ホントは全部繋がってるじゃないですか?先月ポーランドからスワヴェク・ヤスクウケが来日してましたけど、バックボーンにあるのはクラシックやし、日本にはいろんな文化が入ってくる土壌があるから、良くも悪くもオルタナティヴな、ミクスチャーなジャズができる。そういうのを作るには今がベストな時期やし、歴史的に見ても、初めてそれを日本から海外に発信できる時期なんじゃないかと思うんですよね。

RM jazz legacy 大塚広子さん

― 90年代初頭のクラブジャズのシーンだと、ジャズとクラブミュージックが混ざり合っていたけど、今のジャズは本当にいろんな音楽が混ざり合っていて、そこがひとつの面白さになっていますよね。

守家 アルバムとかショウの中で、「この曲は4ビート、この曲はスウィング、この曲はバラード、この曲はロックっぽいビート」とかってやる人がいますけど、僕の中でそれは全然面白くないっていうか、むしろナンセンスやと思うんです。そういう風にやってる人が多いし、お客さんに伝わりやすいのかもしれないけど、僕がやりたいのはもっと純粋なクリエイティヴで、アートやと思ってるから、いろんな要素をちゃんと音楽の中に混ぜ込んで、ひとつの曲のアレンジメントをしたかった。それはオリジナルでもカバーでもよかったんですけど、それをやるにはミュージシャンの立場からだけでは無理で、普段から曲単位でお客さんの反応を見ていて、音楽的な歴史や位置付けを理解しているDJと一緒にやるのがベストやなって。だから、「ジャンルは何?」とか「どういう音楽?」って聞かれても、伝えにくいんですけど、新しく創作するってことをやってるんです。

― そのためにも、曲ごとにプレイヤーを変えるというスタイルを選んだと。

守家 ミュージシャンって、やっぱり組みやすい人とやってしまうんですよね。ジャズは特にインプロヴィゼーションが言葉みたいなもんやから、ある一定の教育と習練、現場での経験でコミュニケーションできる同士が無意識に集まるけど、それって結果同じ様な会話になってしまうんですよね。やってる方はリズムとかノリが合うから、「今日も上手く行った」ってなるけど、聴いてる方からすると、ずっと同じに聴こえてしまうかもしれない。それがいいか悪いかは別の話ですけど、僕はそうじゃなくて、会話としてはチグハグだったり、気持ちよくないかもしれないけど、それを客観的に聴いて、違うものを生み出すっていうのがテーマで、だからジャズ以外のミュージシャンにも参加してもらってるんです。通ってきたリズムやノリが違うから、実際録音や現場が終わったときに、「今日はやりにくかった」って話になることもあるんですけど、僕としてはむしろそういうときに「上手く行ったな」って思うんですよね。

― それが結果的にそのミュージシャンの新たな側面を引き出すことにつながったり、もともと持っていたけど表出していなかった部分が見えたりっていうことにつながるわけですよね。昨年の12月には新作『2』がリリースされていますが、何かテーマはありましたか?

守家 僕の中では「アフリカ」がテーマでした。ジャズにしろカリビアンミュージックにしろ、グルーヴやリズムのルーツをたどると、アフリカがあるわけですよね。それを実際に感じたのが、2年くらい前にアルバムにも参加してもらったオマール・ゲンデファルっていうセネガル人のパーカッショニストと出会ったときで、言葉が通じない分、まさに音で会話するって感じだったんですけど、僕が意識的にジャズやレゲエ、ファンクのニュアンスとかでコミュニケーションをしてみようと思ったら、向こうはすごく自然で、どんなスタイルで会話してもビタッと合ったので、やっぱりアフリカがルーツなんやなって思って。ファーストでは曲に合わせてホーンセクションを入れたりしたけど、『2』ではもっと根源的な、アフリカに向かうっていうか、望郷の念というか、そんなイメージでした。

― 結果的に、よりクラブユースな作品になったとも言えそうですよね。

大塚 はい、レコードでかけたいです(笑)。ファーストに対する客観的な意見として、結構「まとまってるね」って言われて、自分たちが思ってる以上に大人っぽいものになってたのかなって思ったので、『2』ではもうちょっと自由に、メロディーが際立ってたり、楽しいものにしたいと思って、それができたかなって思いますね。

― 2月にはライブも予定されているそうですね。

大塚 『2』はグルーヴが前に出ていて、そこにはクラブミュージックからの影響もあるので、自分が14年近くやっている渋谷のTHE ROOMで2月24日にリリースライブをする予定です。ぜひ実際にRM jazz legacyの演奏を体感してほしいと思います。

RM jazz legacy 守家巧さん・大塚広子さん
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