コラボオンラインライブ開催記念特集「KREVA×Technics」

さまざまなクリエイターに話を聞き、音楽と創作活動の分かちがたい関係を探る企画「Music & Me ~クリエイターが語る音楽と私~supported by Technics」。第5回は、2008年のオープン以来、連日行列ができるほど愛され続けている東京・富ヶ谷のワインバー「アヒルストア」の店主である齊藤輝彦をゲストに招いた。今回はアヒルストアにて、Technicsのターンテーブル「SL-1200」シリーズの最新モデル「SL-1200MK7」でお気に入りのレコードを聴いてもらいつつ、齊藤の音楽遍歴やワインと音楽の意外な関係性、アナログレコードの魅力について話を聞いた。

取材・文 / 宮内健
撮影 / 須田卓馬
動画撮影 / Ubird
取材協力 / アヒルストア

美は自分で発見したい、という欲があるのかもしれない

ー 齊藤さんが学生時代を過ごした90年代後半は、渋谷にレコード屋がたくさんあった時代ですよね。

レコ屋、お金もないのに通ってました(笑)。茨城県出身なので東京と言ったら上野だと思っていたんですよ。子供の頃は上野までしか行ったことがなかったし、入った大学も千葉だったので。だから渋谷に上陸したのは96年で、けっこう遅いんです。

ー 当時はどんなレコードを目当てにレコ屋に通っていたんですか?

その頃はモンドミュージックみたいな言葉が流行っていて、僕は天邪鬼だったから、いわゆる名盤みたいなものをいい値段出して買うことが恥ずかしかった(笑)。だから、あまり注目されてない変なレコードを安く買って、それをサンプリングして楽しんでいました。あと渋谷のレコ屋はけっこう高かったから、下北沢に行ってましたね。下北のレコ屋の1000円以下のコーナーでジャケ買いしてたんですけど、1、2枚だとカッコ悪いし、ナメられるんじゃないかと思って(笑)。お金もないのにクールな顔してレジに10枚くらいドーンッと持って行って買ったりしていました。帰って聴いたら、どれもハズレだったってこともあったけど(笑)。

ー その天邪鬼な感覚はレコード以外のものにも当てはまりますか?

家具とかでもそうなんですけど、有名なデザイナーの名作と言われているものには興味が湧かないんです。もちろん素晴らしい作品だということはわかるんですけど、世の中にすでに価値が認められたものを手に入れようとは思わない(笑)。まだ世間から見向きされていなくても、自分が「これすごくない?」と感じるものを手に入れたいんです。美は自分で発見したいという、生意気な欲があるのかもしれないですね(笑)。

アヒルストア店主・齊藤輝彦が「SL-1200MK7」で聴きたい3枚

ー 齊藤さんにはTechnicsのターンテーブルの最新モデル「SL-1200MK7」で聴いてみたいレコードを3枚選んでいただきました。

Yellow Magic Orchestra「サーヴィス」

「サーヴィス」は子供の頃からよく聴いているけど、アナログ盤を入手したのは大人になってから。僕のレコードにはサインが入ってますが、これは坂本龍一さんがアヒルストアに来てくださったときに書いてもらいました。B面ラストの「PERSPECTIVE」は教授が作曲した曲。タイトル通り空間の広がりや奥行きを感じさせる世界観のあと、ぽわーんとした感じの声で「お父さん、見て」「お! 茶柱か」と家族の会話が入って終わる。そのシュールな感覚を、このアルバムで学んだのかもしれない。青春時代をこじらせる原因の、本当の入口を開けてもらったような気がします(笑)。

The Beach Boys「Smiley Smile」

僕が録音芸術にのめり込むきっかけになった1枚。ブライアン・ウイルソンは、The Beatlesに対抗して「Smile」というアルバムを高い志を持って制作したけれど、突き詰めすぎて途中で精神が病んでしまいアルバムは未完成となった。「Smiley Smile」はそのレコーディングの断片をまとめた未完全版の1枚なんですけど、僕は完成しなくてよかったなと思っている派なんです。なぜかと言うと、完成しないがゆえに「Smiley Smile」という芸術家の脳内を覗いたようなエッジィな作品が世に出されたから。聴くたびにブライアン・ウィルソンっていう人の狂気を感じて、鳥肌が立つアルバムです。

Géométries「La tristesse du facteur」

今年の正月、南フランスのワイナリーに1週間ほど泊めてもらいました。「L 'absurede genis de fleurs=ラブシュルドゥ・ジュニ・デ・フルール」という蔵で、トムとミハというカップルが2人でワイン造りをしています。ミハはルーマニア人女性で、彼女が日本の古い前衛音楽家にも詳しい音楽オタクなことを滞在中に知りました。話が盛り上がって帰り際に彼女から渡されたのがこのレコード。ミハと、もう1人のフランス人アーティストのゲイルがコラボして作ったアルバムなんです。音楽も素敵だけど、自分でシルクスクリーンで刷ったジャケットなどアートワークも素晴らしくて。アナログレコードは実際に音の記録ってことだけじゃなくて自分の中のアートを表現する媒体であると、改めて教わった感じでしたね。彼らが醸造するワインの味わいも、音楽やアートとトーンが一緒。自分自身の内から湧き上がるもので作ってるんだなって。彼らのワインは本当に味もおいしくて、まだ今のところ知る人ぞ知る生産者ですけど数年のうちにすごく有名になるはず。フランスからの帰国後、残っていたインポーターの在庫を全量買ったので、彼らのワインはアヒルストアで飲めますよ!(笑)

これからもずっと「SL-1200」シリーズで

ー 幼少期から学生時代と、常にレコードに触れてきた齊藤さんですが、今も生活の中にレコードは身近にありますか?

今は子育ての真っ最中なので、自宅でレコードをかけるのは少しぜいたくな時間なんです。「たまにはコーヒーを豆から挽いてみるか」という感覚に近いのかな。レコードってあっという間に片面が終わっちゃうじゃないですか。料理しながら聴いていると、炒め物の手が放せないところでレコードをひっくり返さないといけない、みたいな(笑)。だから普段はついついiTunesで聴いちゃうんですけど、子供がもう少し大きくなったら、レコードのよさも伝えたいと思います。

ー レコードを聴く行為は片面の30分弱の時間、音楽とちゃんと向き合う感じがありますからね。ちなみにご自宅のターンテーブルはTechnicsなんですか?

はい。自宅のターンテーブルは「SL-1200MK3」で、アンプは真空管アンプを使っています。「SL-1200」シリーズの好きなところで言うと、ON/OFFスイッチにLEDライトが付いてるじゃないですか。僕はインテリア畑の出身で照明オタクでもあるんですが……その光でターンテーブルの円周の横にあるドットがアニメーションのように逆回転して見えるんですよ。僕、これが本当に好きで(笑)

ー ずいぶんとニッチなところに着目しましたね(笑)。

家で飲んでいていい感じに酔っぱらってくると、照明の調光をだんだんと暗くしていって、最後は照明を0まで落とし切るんです。そうすると、「SL-1200」のON/OFFスイッチのLEDライトに照らされて、ドットが動いているのがぼわーんと浮かび上がる。それと真空管の光だけが部屋の中で灯っているのが、すごくセクシーだなって思って。オーガニックのアロマキャンドルなんて目じゃないぐらい(笑)、よっぽどこっちのほうが素敵だなって思っちゃう。

ー その感じはなんとなくわかります。その空間で自分とこの機械と音楽だけが一緒の時間を過ごしている感覚と言いますか。

そうそう(笑)。

ー 忙しく過ぎていく生活の中で、そういう時間を持てることは大事ですよね。

そうですね。ここ数年で音楽を聴く環境はものすごく便利になったけど、ある意味でめちゃくちゃインスタントになった印象もある。その点、アナログのターンテーブルというのは、マニュアルのクラシックカーのようだと思っていて(笑)。手間がかかることがむしろぜいたくみたいな。今回、「SL-1200MK7」を使わせてもらいましたけど、自宅の「MK3」と比べても、なんの違和感もなくて、「どこが変わったの?」と思うくらい初見でも操作できる。プロダクトとして完成されているというか、すごいことだなって思うんです。もちろん音質や機械内部の技術的な部分は格段に向上していると思いますが。

ー 実際、モデルチェンジした「SL-1200MK7」は、デジタル制御のダイレクドドライブモーターをはじめ、最新の高音質技術が惜しみなく注ぎ込まれていて。操作性やフィーリングは50年続く「SL-1200」シリーズを継承しています。

革新すべき部分と守り続ける部分。それはTechnicsというブランドが自分のストロングポイントを理解している証だと思いますし、頑固さとクールさを兼ね備えている。「SL-1200MK7」はそこがカッコいいですね。あと「SL-1200」シリーズは、うちの店で使っているガスレンジとどこか共通する感覚があるなって思ったんです。このガスレンジはものすごく昔から使われ続けている製品で。ガス管につながったレバーを引いて、ライターで着火する。操作方法はそれだけ。非常にプリミティブな構造のものなんですけど、僕にはこれが一番使いやすいんです。もちろん今の時代は最高にハイテクな調理器具はいくらでもあるけど、そういうものって料理をしていても自分が介在している感覚が希薄なんですよね。こうして火を使って、目で見てレバーで調節していると自分が料理をしているんだと体感できる。ある意味、食材と会話するための道具のようにも感じるんです。

ー プリミティブなガスレンジで料理をすることで、食材はもちろん、生産者やお客さんなど、さまざまなものとのコミュニケーションを感じるように、「SL-1200MK7」でアナログレコードをかけることは、音盤を通してアーティストやバックグラウンドにあるカルチャーとコミュニケーションを取りながら、音楽を体感することなのかもしれないですね。

そう。だから僕は、これからもずっとこのガスレンジで料理をし続けると思うし、これからもずっと「SL-1200」シリーズでレコードをかけ続けると思います。

PROFILE / 齊藤輝彦(サイトウテルヒコ)
東京・富ヶ谷のワインバー・アヒルストアの店主。大学卒業後は設計事務所を経て、弁当屋台・スター食堂やワインショップ・トロワザムールに携わる。2008年にアヒルストアをオープン。アヒルストアでは齊藤自らが選曲する音楽を楽しみながら、良質な料理やワイン、自家製パンを味わうことができる。

店舗情報 / アヒルストア
住所:〒151-0063 東京都渋谷区富ケ谷1-19-4
TEL:03-5454-2146
営業時間:15:00~21:00 ※定休日水曜・日曜(祝日営業)
AZ60

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