- 小山田圭吾のソロユニット。'93年、CORNELIUS(コーネリアス)として活動開始。2017年6月、約11年ぶりのニューアルバム「Mellow Waves」をリリース。自身の活動以外にも、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやREMIX。プロデュースなど幅広く活動中。
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約11年ぶりのニューアルバム「Mellow Waves」が話題のCORNELIUSがTechnicsのオーディオ機器セッティング確認用に面白い音源を作った。12inch、45回転のアナログレコードに、オーディオ機器セッティング確認用のさまざまなデモンストレーション音源を収めたアナログレコードだ。
そもそもTechnics製品開発の際に、CORNELIUSの「Like A Rolling Stone」(アルバム「SENSUOUS」収録)をオーディオ評論家の和田博巳氏が評価指針として使用したことが、このレコードが作られるきっかけだった。そのうちTechnics独自のオーディオチェッカーが必要ということになり、CORNELIUSに制作依頼が行くことになったという。
このレコードは非売品だが、Technicsのダイレクトドライブターンテーブルシステム SL-1200GRを買って応募すると入手できた。オーディオマニアにも音楽ファンにも見逃せないアイテムだ。(キャンペーン応募受付は、既に終了しました。)CORNELIUSが長年望んでいたもののなかなか実現できなかった、透明PETを使った特殊ジャケットも注目である。
CORNELIUSこと小山田圭吾を、スタジオコーストでのツアー東京公演に登場した移動式の試聴ルーム「Technics Sound Trailer(テクニクスサウンドトレーラー)」に招き、Technicsのハイエンドオーディオシステムで、アナログレコードを試聴してもらったあとでインタビューを行った。
取材・文 / 小野島大 撮影 / 淺本竜二
― アナログ盤になったのを聴いたのはこれが初めてですか?
いや、家で聴いてます。
― スタジオで作ったデジタル音源を、実際にアナログ盤として聴いてみて、何か違いは感じましたか?
やっぱりね……空間の広がりとか、そういうのはデジタルのほうがよりわかるんだよね。でもこれはアナログプレイヤーのテスト用のものだから。チェックできないと意味がないから、それはちゃんとわかるようにしました。
― 音の聞こえ方とかバランスとか、そういうのは違いました?
今聴いたのはかなり感度を上げていたから、スクラッチノイズとか拾ってたね。でも家で聴くときはこんなデカい音で聴くことはないし(笑)、そういうところは全然気にならない。やっぱり今回これだけ大きな音で聴くと恐怖心を感じるよね(笑)。ヤバい! 止めて! っていう。低音とか高音とか生々しすぎて、ホント怖いですよね。
― 最後の正弦波がだんだん大きくなっていくところとか大音量で聴くと相当に怖い。ヤワなスピーカーでこれ聴くと飛んじゃうんじゃないかと。
うんうん。スピーカーがヤバい動きしてしてましたよね(笑)。
― コーンが前後に激しく動いてましたね。
あと位相感はすごいですね。ホワイトノイズの位相チェック。この環境で聴くと。前後感とか、えーっという感じになりますよね。
― そもそもこれは最初はどういう感じで依頼があったんですか。
普通にオーディオチェック用のレコードを作りたい、と頼まれましたね。それ以上の注文は特になくて。チェックできればいいじゃないか、と。
― こういうチェック項目を最低限入れてくださいと。
好きに作ってくれって(笑)。
― デジタルで作るから、チェック用の音はすごく厳密に作れますね。
うん、無音は完全に無音になるからさ。
― アナログ盤のスクラッチ音が気になるぐらいに。
そうそう。スクラッチ音が入るとなんか違う曲に聞こえるよね。ある種のエレクトロニカのパーカッション的なものに聞こえた。
― エイフェックス・ツインやオウテカのグリッチノイズみたいな。
プチプチって。
― あえてとそういう音を入れてるように聞こえる。
うん、今アナログ盤で聴いたら、また新たな音楽として聞こえたね。
― それは聴く人の再生環境で入ってくる音も変わってくる。
そうそう。異様にバチバチするやつもあるだろうし。
― なるほど。そういうノイズも、むしろ面白い効果として聴けるという。そういう楽しみもある。
そうですよね。
― 今回の音源は制作時期はいつ頃だったんですか。
いつ頃だろ。去年の末ぐらいからかな……。
― 「Mellow Waves」と並行してやってたということですよね。
「Mellow Waves」がだいたいできてミックスとかやってるときに、作った記憶がある。
― 作る際に注意したことや苦労したことは。
ちゃんとチェックできないとダメだからね。そこは注意したけど、特に苦労はしなかったよ(笑)。やることが全部決まってたから。あらかじめナレーションがあったから、その通りにやっていけばよかった。
― でも無味乾燥なチェックレコードではなく、聴いて楽しいものにする、という配慮は感じました。
うん、もちろん。楽曲として面白くて楽しめるんだけど、ちゃんとチェックもできるっていう。なのでこれはすごく気に入ってますよ。ジャケットも含めて。企画自体がよかったんですよ。Technicsのプレイヤーのためのチェックレコードっていうコンセプトがすごい面白いと思ったから。なので僕もジャケットをグルグル回しながら遊んでます(笑)。
― ふだんアナログレコードはよく聴くんですか。
最近またちょっと聴き始めました。ここ3年ぐらいかな。
― 今なら同じ音源でも、いろいろ聴く手段あるでしょう。CD、ハイレゾデータ、ストリーミングからYouTubeまで。アナログ盤で聴くことで新たな発見とか楽しみはありますか。
アナログって聴感上の聞こえ方は全然違うよね。空間があるっていうか。
― スタジオで音楽を作ってるときは最新のデジタルな環境で聴いてるわけですが、それとは違うわけですね。
うん、全然違う。アナログ聴くときは家だからね。スタジオでは聴かないよね。
― 自宅でリラックスしてるときに聴く。
うん。あと、わりと集中して聴くよね。儀式があるじゃないですか。
― 盤をセットして、アンプの音量下げて針を落として、また上げて……。
そうするといつもよりちゃんと聴いたりする。だから時間の余裕がないとアナログレコードってなかなか聴けない。休みの日の家でお茶飲みながらレコード聴くって、最高に贅沢な時間ですよね。
― 最近世界的にCDの売り上げが落ちてアナログの売り上げが増えています。日本でもTechnicsを始めアナログプレイヤーの新製品がどんどん出ている。そういう傾向はどう捉えてますか。
うれしいですね。うちの息子は16歳だけど、アナログレコードめっちゃ買うんですよ。CDはたぶん1枚か2枚しか持ってない(笑)。あとはストリーミング。
― そういう購買行動をしてる若い人って世界的にたくさんいそうですね。
いるんじゃないかなあ。音楽好きな人だったらそうなるよね。
― 小山田さんはCDはたくさん買うんでしょ?
僕?たまにね。
― あ、「たまに」ですか。
うん。たまに。新譜は好きだったらなるべくアナログで買って、あとは配信みたいな。アナログだとダウンロードコード付いてるやつとかあるじゃないですか。CDでしか出ないやつは仕方ないのでCDで買う。でもアナログレコードは、お金を払ってるのはほとんどジャケットに対してかもしれない(笑)。買ってもレコードは1回ぐらいしか聴かなくて、あとはこっち(ストリーミング)で聴いちゃうよね。車の中とかだったらね。
― ジャケットも含めたモノとしての魅力も大きいですからね。
そうだね!